この段階で行うことは、前段階で視覚化されたUXの表現を徐々に製品・サービスの仕様へと具体化していくことであり、この段階ではデザインに関する仕様書が出来上がることとなる。評価を繰り返しながら詳細度を高めて行くプロセスがこの段階において最も重要である。
この段階ではデザインの仕様を確定させるというデザインの中心的作業を行う。UXデザインでは各段階において、人間中心設計プロセスの概念に則り反復設計を行うが、この段階が最も反復プロセスを機能させる段階である。反復プロセスの活用により抽象的なコンセプトから具体的なコンセプトへとまとめあげる。これまでの段階では問題や不足があれば修正するといたスタンスによる反復であったがこの段階での反復は少し異なることがわかる。
この段階の作業を円滑に進めるためには、デザイナーとエンジニア、UXデザイナーとで協業し、仕様を確定するための作業であることを理解してもらい一緒に作業する必要がある。これがこの後の実装化の過程で発生する問題解決をスムーズに行うことを可能とする。
目的
- コンセプトの妥当性についてユーザーの参加による評価を行い、開発するコンセプトを選定する
- 開発する製品・サービスを、ハードウェア・ソフトウェア・ヒューマンウェアをどのように組み合わせた構成で実現するかを検討し、デザイン対象物を明らかにする
- 理想のUXを目標にし、ユーザー視点の評価を組み込んだ反復的なデザイン過程により、開発する製品・サービスのデザイン仕様を明確化する
手順
手順1. コンセプトテスト・評価
複数のコンセプトに対してのユーザー参加によるコンセプト評価を行い、具体化する製品・サービスを絞り込むことから始める。また、この段階は単に選ぶだけでなく評価を通してコンセプト自体をブラッシュアップしていく過程であると心得ておくと良い。前の段階において作成されたコンセプト、アクティビティシナリオを用いてユーザー参加のコンセプトテストを行い、開発するコンセプトを定める。以下の項目に沿ってアウトプットをまとめると良い。
- コンセプト評価方法の実施概要
- 評価対象コンセプト
- 評価結果
- 改善すべき点
手順2. デザイン対象物の構成の検討
デザイン対象物とはアプリやWebサービスなどである。初期段階から決められている場合はそれに基づく。ビジネス基盤が十分でない領域で新規に検討する場合は、最も中心的でほかの製品やサービスと差別化される部分に特化してデザイン対象とする方が良い。下記に沿ってアウトプットをまとめる。
- ハードウェアで実現する範囲と役割
- ソフトウェアで実現する範囲と役割
- サービスで実現する範囲と役割
手順3. 企画書をまとめる
コンセプトに変化があった場合はコンセプトとアクティビティシナリオなども合わせて修正する。ジャーニーマップは目標とするUXを表すTO-BEモデルを作成すると良い。下記の内容をもとにアウトプットをまとめたい。
- 実現する体験価値の設定
- ユーザーモデル(ペルソナ、 AS-ISモデルのジャーニーマップ、価値マップ、その他情報を整理したもの)
- ビジネス環境分析
- 改善したコンセプト
- 改善したアクティビティシナリオ
- 改善したUXの視覚化表現(TO-BEモデルのジャーニーマップなど)
- 製品・サービスのUXの関電での要求事項・主要タスク
手順4. プロトタイプの作成、評価
企画書をもとにプロトタイプを作成していくが、プロトタイプは具体化の程度に応じて作成する目的が異なるため、段階に応じた適切なものを作成する。ここでも反復設計の概念に則り、作成、評価、修正を繰り返し、徐々に形にしていく。このときペルソナを常に意識しながらデザインすることが重要となる。ペルソナを大きく印刷して作業空間に貼るなどして、常に意識できるようにすると良い。米国企業においてもメンバー全員のデスクにペルソナを印刷した三角パネルをおくなど工夫している。このプロトタイプの作成と評価を繰り返すことでプロトタイプを具体的に詰めていき、仕様を明確化させていく。
プロトタイプで検討すべき段階はおおむね大きく分けて4つの段階に分けられる。各段階において下記3つの観点から考えると良い。尚、ユーザーを常に念頭におくことが大事であるためあえてユーザーという単語を最初に持ってきている。プロジェクトを進める際にも主語が常に「ユーザーは〜」となっていることが重要である。
尚、下記4段階はいずれも1つのプロトタイプを作り評価をすれば次の段階に進んで良いというわけではなく、評価の結果によっては次の段階に進まず修正し再評価を行うことを前提として進める。
- ユーザーがサービスを使うことが「できるための検討」
- ユーザーがサービスを理解し「わかるための検討」
- ユーザーにとってサービスを用いることが感情的に「うれしいための検討」
<1.構造の検討段階>
アクティビティシナリオに沿って、画面遷移などは十分に検討されていなくて良いので、体験に合わせてどんな画面があるかのスケッチを行う。ここで、ストーリーボードと画面スケッチを合わせてウォークスルー評価を行うと画面スケッチの問題点を抽出することができる。その結果を踏まえ情報設計と検討を行っていく。必要に応じてカードソーティングなどユーザー参加型の調査を行う場合もある。
<2.ふるまいと認知検討段階>
想定した動作をユーザーが行う一連の流れを、一通り想定した初期プロトタイプを作成する。この段階は手書きのワイヤーフレームによるペーパープロトタイプなど簡単に修正ができる手法を用いて作成すればよい。それをもとに「オズの魔法使い」と呼ばれる簡易に動作を表現できる方法などを用いて評価を行う。ナビゲーションやデザイン、レイアウト、アニメーションといった見た目や動きの側面から、意欲を高め維持するためのメタファーやモチーフといった感情的な側面まで詳細に検討する。
<3.見た目のデザインの検討段階>
ワイヤーフレームをもとにインタフェースや外観などの見た目のデザインを検討する。検討事項は使いやすく誤りにくい表現であるか、わかりやすく誤解しにくい表現であるかなどである。この段階において、社内の協力者やインタラクションの詳細を知らない人の協力を得て評価を実施すると改善に役に立つ情報を得られる。
<4.デザインの洗練段階>
より完成形に近い状態のプロトタイプを作成する。この段階では実際のユーザーに参加してもらい実際に使ってみてもらい実際の利用文脈を想定した仕様により問題点を発見し改善していく。一般的にはいくつかのデザイン案を検討し、複数の案から選択して検討していく。WEBページを例にあげるとトップページと2階層目の代表的ページだけを複数のデザイン案で作成するといったことがある。(ローカルプロトタイプ)
評価・デザイン仕様書においては下記に沿ってアウトプットすると良い。
<プロトタイプ評価の結果>
- プロトタイプ評価方法の実施概要
- 評価結果
- 改善すべき点
<デザインに関する仕様書>
- デザインカンプ/モックアップ
- ナビゲーション設計および詳細ワイヤーフレーム
- 画面遷移・インタラクション設計
- インタフェース要素のデザイン
- ロゴデザイン等
手順5. ビジネス的実現性と仕組みの検討
特にサービスを新たに作る場合などビジネスモデルの実現可能性や実現するための仕組みの検討もこの段階で行う必要がある。以下の項目を参考に仕組みに関する仕様書を作成する。
- ビジネスモデル
- サービスブループリント等
手法
コンセプト評価の手法
<コンセプトテスト(シナリオ共感度評価)>
- アクティビティシナリオを用いた評価
- ストーリーボードを用いた評価
- バリューストーリーを用いた評価
シナリオからタスクに変換する手法
- ユーザーストーリーマッピング
- アイデア・タスク展開
プロトタイプの手法
- インタラクションシナリオ
- ペーパープロトタイピング
- ラピッドプロトタイピング
プロトタイプ評価の手法
- ストーリーボードを用いたウォークスルー評価(ストーリーボーディング)
- オズの魔法使い
- サービスロールプレイ
- 高速反復テスト評価手法(RITE)
- ユーザビリティテスト
- 発話思考法によるプロトコル分析
- 認知的ウォークスルー
- エクスペリエンスフィードバック法
- ヒューリスティック評価/エキスパートレビュー
提供の仕組みを検討する手法
- サービスブループリント
- ビジネスモデルキャンバス
- 顧客価値連鎖分析
デザイン要素を検討する手法
- カードソーティング
- スピードデート法
- 望ましさ(ディザイラビリティ)テスト
実践のための理解を深める
プロトタイプを用いることは導入コストが低く開発リスクを削減でき、サービスの品質向上をコストパフォーマンス良く行うことができる。また、UXデザインのプロトタイプではまず手書きの画面スケッチから始めるが、その理由は下記である。
- とにかく早くイメージを形にするため
- 簡単に作り直しが可能なため
- 評価の際に本当に大事な部分に注目してもらうため
1点目に関しては、この段階に至るまででUXについては視覚化されているがサービスについては視覚化されておらずイメージが異なっている場合がある。そのイメージの乖離を払拭するためである。
2点目に関しては、イメージが異なっている場合にいかに簡単に作り直せるかが重要になってくるためである。作り直すことを前提としたプロトタイプを作ることが重要となる。
3点目に関しては、少しでも具体的なプロトタイプを作ってしまうと文字のみやすさや色使いなど初期段階に検討すべきでないことに目がいってしまうことが少なからずある。手書きであれば大雑把なデザインとなるため細かい点よりも本質に集中しやすくなり適切な評価を期待できる。
この3点目における忠実度の概念の理解と適切な忠実度でのプロトタイピングがこの段階をより効率的・効果的に行うために重要となる。このプロトタイピングにおける忠実度のコントロールがUXデザイナーにとって重要な能力である。