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ユーザー体験のモデル化と体験価値の探索

by tagami

この段階で行うことは、ユーザー調査の結果を分析することである。体験価値の仮説を導出し、デザインが実現すべき体験価値の候補を検討する。

エスノグラフィなどによって得られる定性的な情報は、非常にリッチな情報であるものの、さまざまなレベルの情報が混在し、そのままデザインに活かすことは難しい場合が多い。ここで、定性的なデータの分析手法を適切に用いることで本質的ニーズの発見を助ける

注意しておきたい点は、ユーザー調査を行えば本質的ニーズをすぐ導き出せるというのは誤解である。(どんなサービスが欲しいですか?と問い、そこを掘り下げることはニーズ探索と言えない)また、分析を詳細にすればするほどよいというわけでもない。十分に十分なほど対象の行為を理解できたとしてもデザインの役に立たないことは起こりうる。UXデザインをするにあたっての手がかりが得られる分析を行う必要がある

また、この段階においてはユーザー調査とデザインの間のギャップを埋めることが重要なポイントとなってくる。企業規模が大きくなればなるほどユーザー調査とデザインはそれぞれ別のスペシャリストが担うことが多いことが予想されるが、こうしたやり方はユーザーの実態の理解が難しく、結局デザイナーが思い込みで考えたユーザー像に基づく提案になってしまことが少なからずある。

そのため、メンバー全員が調査に関わることがベストだが、現実的には難しいのでユーザーモデルを作ることによってユーザー情報を共有しやすくする。ただ、このユーザーモデルというよりはこのユーザーモデルを作り上げていく過程が重要である。この過程には生のデータを一つ一つ丁寧に分析しながらユーザーの利用文脈に共感していく作業でもある。元現場に参加できなかった関係者を含め、多くの関係者と一緒に実施することが望ましい。

この段階において最も気をつけなければならない点がある。それは、この段階においてビジネス戦略やビジネスの要求事項については一切考えないことである。この段階は分析、つまり現実のユーザーの利用の実態と向き合い、そこからデザインの手がかりを得ることだけに集中する

この段階における目的

  • ユーザー調査の結果から、発見的・探索的にユーザーの体験価値や本質的なニーズの仮説を導出し、デザインが実現すべき体験価値を探索する
  • この後のデザインプロセスをユーザー中心に円滑に進められるよう、ユーザーモデルを作成する

手順1. データの確認

この段階から参加するメンバーがいる場合には必ず調査結果のローデータに目を通してもらう。前段階から同一メンバーにて一体的に実施する場合は必要ない。

手順2. 分析手法の選定、ユーザーモデリング

ユーザーモデリングとは、ユーザー調査で得られた膨大な情報の中から、典型的なユーザーの利用文脈を視覚化・要件化することを目的とした、データからユーザー情報の抽象化とモデル化を行う作業である。

この段階においてはユーザーモデルを作ることができれば良く、データの種類やメンバーのスキルを考慮して実施しやすい手法を選べば良い。調査やモデリングの手法が異なっていても少なくとも3つの種類の利用文脈を表現したモデルが必要となる。この段階において必要なアウトプットと推奨されている例は下記である。これらの方法は一般的なモデリングの手法でありメンバー間でも理解しやすい点から、まずはこの3つのモデルを作成することを目標にすると良い。

  • 対象ユーザーの典型を分析したモデル(例:ペルソナ)
  • 対象ユーザーの典型的な行為と認知や感情を含んだモデル(例:ジャーニーマップ)
  • 対象ユーザーの体験価値を分析したモデル(例:価値マップ) 

代表的なアプローチには以下のものがあり、それぞれの考えに沿ったユーザーモデリングの方法を提案している。されに理解を深めたい場合は原文を読むことをお薦めする。

  • コンテクスチュアル・アナリシス
  • コンテクスチュアル・デザイン
  • シナリオベースト・デザイン
  • ゴールダイレクテッド・デザイン
  • ビジョン提案型デザイン手法

手順3. 市場やサービスの分析

ユーザーモデリングができた時点で初めて他社のリサーチを行う。どんなサービスがあるか、その詳細はどういったものかといったリサーチも行うが、体験価値や本質的ニーズの探索のためのリサーチでもあり、ユーザーがそれらのサービスからどのような体験価値を感じているか、とユーザー視点でのリサーチも行うことがポイントである。必要なアウトプットは下記である。

  • 競合製品、サービスのリスト
  • 上記のサービスがユーザーにもたらす体験価値分析の結果

手順4. 必要に応じて共感ワーク

メンバーの多くがユーザー調査に参加できず、利用文脈を把握しづらい場合に行う。共感ワークとは、メンバー自身が実際に対象の行為を体験したり模擬したりするなどしてユーザー体験を追体験することでユーザーへ共感するためのワークである。注目すべきニーズや体験価値に気づけることが多い。下記を参考にアウトプットしたい。

  • 共感のためのワークの実施概要(目的、方法、メンバー)
  • 共感のためのワークの結果(各メンバーの所感、気づきのまとめ) 

手順5. 体験価値の検討

ここまでの結果を踏まえ、着目する体験価値やニーズを絞り込み、デザインによって実現する体験価値を探索していく。下記題目を参考にアウトプットをまとめたい。

  • 着目するユーザーの体験価値、本質的ニーズとその解釈
  • プロジェクトで実現すべき体験価値の候補 

この段階は体験価値の仮説を構築することでもあり、UXデザインプロセスの前半部分の一つの山場である。基本はユーザーの体験価値と比較しながら、目的にあった方法でアプローチする必要がある。アプローチのパターン例をあげるが体験価値を絞り込むのに決まった方法はなく、パターンに合わせて実施すればうまくいくというわけでもない。

  1. インタビューと観察など、異なる観点での調査結果を比較してギャップのある価値に着目する
  2. ユーザーの体験価値・本質的なニーズに対し、技術や既存サービスマッピングを行い、十分充足できていない価値や自社の強みとなりそうな価値に着目する
  3. 関係者自身がユーザーと同じ環境でユーザー体験を追体験(共感ワーク)し、その経験から重視して欲しいと思う価値に着目する
  4. エクストリームユーザーと一般ユーザーとを対比的に調査し、エクストリームユーザーのみに出現する体験価値に着目する
  5. ユーザー調査から得られた結果から、ユーザーが対象行為に対する理解のモデル(メンタルモデル)を推測し、メンタルモデルの構造で重視される価値に着目する
  6. ユーザーの体験価値を、体験の時間軸に沿って並び替え、対象行為の前・中・後それぞれから主要と思われる価値を選択する

本質的に求められている価値を明らかにするパターン(安藤昌也, 2016)より

基本スタイル

手法により得られるモデルの形態は異なるが、通常は観点の異なる複数のタイプのモデルを作る。UXデザインのプロセスを円滑に進めるためには、一つの手法を適用するだけでは不十分である。

実践のために理解を深める(手法選びに必要な考え方)

UXデザインのためには調査によって得られたデータを以下の3つの階層に分けモデリングする必要がある。この階層の考えを理解することは、ユーザー調査で適した手法を検討しやすくなる。

ユーザーモデリングの3階層(安藤昌也, 2016)をもとに作成

この図を一言で表すと特定の目標を持ったある属性の人が(属性層)、特定の行為をすることで(行為層)、その人にとっての何らかの価値を実現している。矢印は利用文脈を表す。左側の色が薄い矢印は調査と分析により明らかにする既存のUX、右側の矢印が目標としてデザインしていく部分となる。実際にはさまざまな文脈や行為が存在するのでこの左側の矢印がたくさんあるイメージだ。
ここで示す3つの観点において個別の文脈を切り離すことで得られたデータを比較できるようになり、共通点や相違点を分析できるようになり、より深いユーザー理解が可能となる。

  • 属性層・・・ユーザーの目標の違いに基づきタイプ分けすると明らかになる
  • 行為層・・・ふるまいの違い、時系列に沿った行為の変化に基づきパターン化すると明らかになる
  • 価値層・・・ユーザー自身が得られる価値や意味、行う理由の違いによりタイプ分けすると明らかになる 

想定ユーザーが決まっているときに、そのユーザーの体験価値にあたる価値を定める。次にその体験価値を感じられる行為で、かつ想定ユーザーが実施可能な新しい行為を作り出す。こうして新たな行為を作ることが体験のデザインでありUXデザインである。ここにおける条件は想定ユーザーにとって魅力的な行為であり、それによって得られる価値が本質的なニーズを満たすものであることが条件となる。

ユーザー調査の手法には、それぞれ把握できる情報に特性がある。それぞれの手法で得られる情報の種類が、属性・行為・価値のどの層に相当するかをよく見極め、プロジェクトの目的に合わせ、ユーザーモデリングのどの階層の情報を重点的に収集するかといった観点から手法の選択、組み合わせを検討するのが良い。

階層別の基本スタイル

<属性層>
アンケート調査が適する。マーケィング調査でユーザーを属性や行動、考え方などが共通する集団に分けるのが典型例である。インタビューやグループインタビューもよく使われ、エスノグラフィなどフィールドワークの結果からも属性層に相当するデータを得ることが可能。

<行為層>
エスノグラフィといった実際の現場での行為の観察が適する。エスノグラフィでは、リッチなデータを得られるため、属性層・価値層の情報も得ることができる。

<価値層>
デプスインタビューやフォトエッセイといった自己報告型の調査が適する。その理由は、より深くユーザーの考えに迫ることができ、内面や価値観に迫ることができるためである。ユーザー自身が体験価値を語ることは少なく、観察されたりインタビューで話されたりした情報を分析し、解釈によって価値を導出する必要がある。

手法

調査の結果からデザインを導くためのアプローチには、体系化された方法がいくつも提案されている。いずれの方法もユーザーの利用文脈を考慮しつつ抽象化や表現の変化を行い、モデルなどに整理する分析過程を含んでいる。

ユーザーの目標の違いに着目した属性モデリング(属性層)

  • ペルソナ法(推奨) 

ユーザーのふるまいの違いや時間的な変化に着目した行為モデリング(行為層)

  • タスク分析
  • ワークモデル分析
  • ジャーニーマップ(推奨) 

ユーザーの価値や理解の違いに着目した価値モデリング(価値層)

  • KA法(推奨)
  • 上位・下位関係分析
  • メンタルモデル・ダイアグラム
  • グラウンデッド・セオリー・アプローチ
  • SCAT

汎用的なモデリング技法(どのようなレベルの情報であってもモデリング可能)

  • KJ法
  • シナリオ法 

参考文献