この段階からは、ビジネスの戦略やビジネスの要求事項についても考慮する。
まず述べておきたいことは、この段階にて行うアイデア発想だけは決定的な方法論がない。ここまでの段階で想像的なアイデアは発想しやすくなっているはずだが、アイデア発想とは最もクリエイティブな行為であり人間の想像力に頼らざるを得ない。
この段階ではどのようなユーザーの、どのような体験価値を感じてもらえるようにした、どのような文脈で用いる、どんなものかが明確にできると良い。そして、このアイデア発想という段階はチームとして実施するのが望ましい。
目的
- 実現すべき体験価値に基づいたユーザーの本質的ニーズを満たすアイデアを発想する
- 体験価値に基づいたアイデアとステークホルダーや業界全体、自社の収益構造などビジネスの観点に基づいたアイデアとが、うまく合わさるように様々な要素を考慮に入れたUXデザインのコンセプトを作成する
手順
手順1. ユーザーモデルと体験価値および本質的ニーズの確認
メンバーは既存のUXや利用文脈を十分に理解し、ユーザーに共感できる態勢が整っていることを前提とする。可能であればすべてのメンバーがユーザーに共感できる態勢であることが望ましい。
手順2. 体験価値に基づくアイデア発想
この段階における発想を軸にしていくのでなるべくたくさん発想することが望ましい。
手順3. ビジネスにおける諸条件を考慮したアイデア発想
手順2においてある程度アイデアが出てきたところで、発想のモードを切り替えてビジネス戦略を確認し、諸条件を考慮したアイデア発想を行うと良い。この段階ではユーザー不在のアイデアとならないよう、ビジネスモデルキャンバスなどをフレームワークを用いると、体験価値に基づく発想とうまく融合するアイデアを発想しやすい。
考え方の基本はとして、あくまでも軸は体験価値に基づくアイデア発想である。そこのビジネスを考慮したアイデア発想を融合していくという方針で取り組む。
この段階では必要に応じて、ビジネス環境分析を行う。開発中の技術や社内外におけるリソースなど多様な視点で整理すると良い。(この分析を行う場合は、「外部環境分析」「内部環境分析」の二つの観点から行うと良い。)
手順4. アイデアの整理・統合
なるべくたくさん発想し、その中から有力なものを選出していく。ここで統合できるアイデアは統合しても良い。この段階において5案から多くとも10案程度にまとめる。コンセプトについては一つに絞らず複数作ることが一般的である。下記の題目に沿ってこの段階におけるアウトプットをまとめると良い。
<候補アイデア>
- 実現する体験価値の設定
- 有力なアイデアの候補群(メンバーの投票などの方法でまとめた結果)
- その他のアイデア(創出されたアイデアはすべて管理する)
<コンセプト>
- 有力なアイデア群をもとにしたUXデザインのコンセプト(例:バリューシナリオ、UXDコンセプトシート)
言葉を使ったコンセプト等となるが、可能であればこの段階でスケッチや簡易なプロトタイプを作成することでアイデアを発想していくのが望ましい。
手法
体験価値に基づくアイデアを整理する手法
- UXDコンセプトシート
- バリューシナリオ(構造化シナリオ法)
- ストーリテリング
- バリュープロポジションキャンバス(pdfはこちら)
ビジネスを考慮に入れたアイデアを整理する手法
- ビジネスモデルキャンバス
- リーンキャンバス(pdfはこちら)
- 顧客価値連鎖分析(CVCA)
複数アイデアを統合して整理する手法
- UXコンセプトツリー
上記にあげたキャンバスやフレームワークはアイデアを創出すべき部分を明確にすることや検討もれを防ぐ効果がある。この段階においてはサービスを提供する仕組みにまで踏み込んでアイデアを検討する必要があり、実に多くの検討すべきことがあり、注意を払ったとしても検討漏れは起こりうるのでこうしたフレームワークを用いることは有効である。論点を整理しやすく複数人で検討する際などに向いている。注意点として、これらはあくまでアイデアの整理に有効であり、良いアイデアが生まれるものではない。またフレームワークの範囲を超えた議論をすることはできない、ということには留意しておく必要がある。
実践のために理解を深める
<ここまでプロセスを踏む意義>
ユーザー調査を得られる結果として多いのは、「〜ができるようにしてほしい」「〜ができる〜がほしい」などの改善意見や、「簡単」「便利」「安心」というキーワードがたくさん出てくる。こうしたときUXデザインではユーザーの意見を直接聞き入れて実現する、ということはしない。こうした意見は、特定であり固有の利用文脈の中で出た思いつきであり、その多くは表面的なものである。このときユーザーがどうしてそのような問題を感じているのかを深く理解すべきであり、その思いつきの背景にある本質的な課題を発見することが必要である。
<ビジネスにおける要求事項はユーザーと無関係>
この段階では初めてビジネスについて考慮するが、これも注意が必要である。ビジネスにおける要求事項はユーザーの求めるものと全く別次元の話であり、提供側の勝手を押し付けてはいけない。理想的なUXのコンセプトは、ユーザーが求める体験価値とビジネスが実現する提供価値がまったく同じ言葉になることである。このためにはビジネス戦略の方の見直しを検討すべきことも大いにある。このユーザーと提供側それぞれの要求事項のバランスを考えることがポイントである。