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UX状況整理

by tagami

ディレクターやデザイナーなど職種に問わず、案件がキックオフされた時点ですべきことはユーザー体験における状況の整理である。なお、課題の発見とそれが本当に課題であると特定することは既に済んでいるとする。

次に挙げる参考項目を参考にユーザー体験の状況を整理し、チームのメンバーが見れる形でドキュメントやオンラインのホワイトボードなどに記しておくと良い。ドキュメントはConfluenceNotion、オンラインホワイトボードはmirofigmaといったツールが便利である。iPadで手書きしドキュメントに貼っておくでも良いだろう。

<UX状況整理 参考項目>

  1. 課題・目的
  2. 該当する画面と遷移パターン
  3. 一般的なユーザーフロー
  4. ペルソナ像
  5. ユースケースの網羅と重点検討
  6. 案件としての要求事項
  7. その画面・設計において最も重要なこと・求められること
  8. 競合と世の中のスタンダード、システムの定石を調査
  9. 影響範囲の考慮とスコープのすり合わせ
  10. 必要となるデザインパターン の洗い出し

これらの内容を事前にきちんと明確にし、自分のものとして落とし込んでおくことが非常に重要である。デザインに時間がかかってしまうデザイナーはこうした事前の状況整理を怠る傾向にある。“Think twice, design once.” の精神が大切であり、いきなり手を動かすのではなく、事前に時間を取りきちんと考える。状況を整理し、メンバー間で前提が共有できた時点で初めて手を動かすことで、少ない時間でより良いデザインをすることができる。

ドキュメントのアウトプットイメージ
ホワイトボードのアウトプットイメージ

1. 課題・目的は何か?

案件を進めていく中で課題・目的は最も重要な要素である。ドキュメントやホワイトボードにまとめていく際はわかりやすい箇所にまず書き留めて置くことをおすすめする。デザインすることが熟達していない場合、検討を進めていく中で知らず知らずの内に課題や目的から逸れることが多々ある。どんな課題を解決したいのか、どんな目的を達成したいのかを第一指針として、いかりを落とすイメージで常に念頭に置きながら逸れたら軌道修正をできるようにする。

経験が浅い場合、検討の方向性が逸れている時間をどれだけ短くできるかがポイントだ。

2. 該当する画面と遷移パターン

該当する画面と遷移パターンも明記しておくと良い。サブ導線などメインとは異なる画面から遷移してきた場合などは文脈が異なりワーディング一つにしても整合性が取れない場合がでてくるからだ。デザイン時はどこから遷移してきた場合でも設計に破綻がないかを考える必要がある。

3. 一般的なユーザーフロー

利用文脈を明確にするために、ユーザーフローを作ることも有効である。頭の中で出来上がっていれば作る必要はないが、チーム内で共通認識として持つための視覚化は説明コストが省けることがある。

主要である導線を軸に、メインのユースケースから逸れるものはサブ導線として軸をずらすことでユースケースの関係性が一目でわかり今後のアイデア発想時の事前知識として役に立つことがある。

4. ペルソナ像

案件における課題の対象のユーザーはどんな状況下にあるどんな人なのか?を明確にしておくことは重要だ。可能であれば同じ状況を再現し、自らが課題を体現することは今後発想したデザイン案を評価する際に役立つ。ここでペルソナ”像”としたのは、ペルソナ法 で述べているほどリッチなペルソナを作る必要はないためである。まずは漠然とでも良いのでユーザー像がわかっていれば良く、必要になった段階で具体的なペルソナを意識すれば良い。

もちろんリッチなペルソナを作ることに越したことはない。さらに製品やサービスの開発に参画して間もないのであれば、実際に会いに行くとより共感を得られて良い。

次の例を参考に漠然と案件において大事だと思われるポイントを意識しつつ、ペルソナ像を掴む。次の項目であるユースケースと合わせて考えるのも良いだろう。

  • PCやタブレット、スマートフォンの操作に慣れているか?
  • 場所や時間帯、所用時間や急務性などどんな状況下にあるか?
  • わからないことがあった場合どんな行動をとるか?

5. ユースケースの網羅と重点検討

ユースケースを明確にしておくことも非常に重要である。なぜならユースケースが発生しない機能は必要ないからだ。あくまでユースケースに沿って、使いやすさなど求められる要件を考える。製品やサービスの使われ方がパッと思いつく場合はそれを羅列すればよい。多岐に渡る場合は5W1Hに当てはめながら、その中で特筆すべきものをピックアップしてまとめると良い。いつ(どんなシーンに)、誰が、何をするのか。また、ユースケースが多岐に渡る場合は各ケースの頻度も書き出しておくと優先順位がつけやすい。

ユースケースが洗い出せたら、どこに重点を置くべきかが見えてくるだろう。重点検討ではデータも活用しながら、どのコンポーネント・タスク・機能がより重要かを見定める。ユースケースに合わせて優先順位を明確にすることは重要だ。しかし、データを見た場合に70%のユーザーが活用しているからといって残りの30%のユーザーのことを考慮しないで良いことはない。データを確認したところで、重要ではない機能でも数十%のユーザーは利用しており度外視することはできない、という結果になることが多く、データを見れば必ずしも最適解がわかるわけではない。

目指すべきは全てのユーザーの期待に応えることであり、その中でユーザーからしても納得感のある優先順位付けがされた設計を行うことが重要だ。

なお、利用率や認識率が1%未満の機能などは除却を検討しても良いだろう。

6. 案件としての要求事項

案件としての要求事項も明確でない場合は明記し、チームで共通認識として持っておくべきである。例えば担保すべき体験価値や機能などだ。

7. その画面・設計において最も重要なこと・求められること

何が重要で何が求められるのか、これも具体的なデザイン案を考える前に明確にしておきたい。これは案件としての要求事項とは別に自身の頭で再度熟考する。案件としての要求事項がマクロな視点なのに対し、こちらはミクロの視点で考えるイメージだ。見た目的なものからマイクロインタラクションなども含まれるであろう。UXポリシーとして整理し、都度更新していくと良い。

例えば、お客様の電話対応中でスピードが求められる場面であれば操作性、幾多のカテゴリーやアイテムの中から対象のものを探さなければならなければ検索性、お金などセンシティブなものを扱う場面であれば慎重・確実性など、時に言葉を作っても良いので理想の形を言語化しておく。

列挙するとトレードオフのものが混在ことも往々にしてあるがデザイン案の発想時に落とし所を見つけるイメージで、とりあえずは挙げられるだけ挙げれば良い。その中で最重要事項群として3〜4つを確立しておくと良い。

デザイン案を作成していく段階では俯瞰してデザイン案を見る必要があるが、その際の評価軸や観点としても役に立つであろう。

8. 競合と世の中のスタンダード、システムの定石を調査

競合がどうしているか、世の中に一般的に普及しているものがどうなっているか、アプリであればiOS標準・android標準がどうしているか、を確認しておく。

世の中に普及しているものとは、例えば電卓アプリを使っていたら、実世界における電卓がどうなっているか、を確認しておくなどである。実世界で触れるものの形状でメンタルモデルが出来上がっていることは多々あり、時に参考になるだろう。

留意しておく点としては、ここで述べていることはそれをそのまま真似すれば良いということではない。もちろんそのまま真似して良い部分もあるが、ケースバイケースであり自身の案件においてはどうするのがベストなのかを熟考する必要がある。どんな思想に則って設計されているのか、などを考えながら見ると良い。

例えばiOS標準のMacのアプリなどは左上に閉じるボタンがある。windowsでは右上だ。ものを読み進める際、視線はZの形に動く中で、windowsの場合、読み進めていく途中に閉じるボタンがあることにある。これは設計としてあまり綺麗ではないだろう。

9. 影響範囲の考慮とスコープのすり合わせ

案件におけるデザインがどこまで他の画面などに影響を及ぼすかを考えることである。これは時にDirやPMのタスクかもしれないが、デザインに関わる人間として考えておくと良い。

スコープに関しては、案件を進めていく中で都度検討する場面も出てくるが事前に判断可能な部分は明確にして着実に論点を潰していくと良い。

10. 必要となるデザインパターンの洗い出し

文字を入力した場合や特別な設定をしている場合など前提条件が変わった場合にも成り立つデザインなのかを考え、いかなるケースにおいても破綻しない設計にしなければならない

レスポンシブ対応はするのか?splitviewの場合はどう表示させるつもりか?文字入力が多い場合は改行するのか、3点リーダーで省略するのか?など。

最後に

ここであげた題目とその内容は一例に過ぎないが、このように案件とユーザー体験を取り巻く環境について事前にしっかりと整理し、明文化し、チームで共通認識として持つことが重要であり、この思想を持つことが案件を手戻りなく進めるうえで重要である。

また、バックナンバーとしても使えるので、後続案件の別のディレクターやデザイナーが検討経緯をキャッチアップでき、こうした検討の蓄積がプロダクトをさらに強化させていくこととなる。

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