UXデザインを行う際は必要な情報を収集するところから始まる。UXデザインには様々なアプローチがあるため参考ではあるが、大きく分けて3つの観点から必要な情報を集め、4つの段階毎におけるアウトプットを行う。(図1)

1. 情報収集
1-1 . デザイン対象領域における現状分析
デザインの対象領域の現状を様々な方法で調査し、ユーザーを取り巻く状況を丁寧に理解していく。この過程においてデザインする作り手が都合よくユーザーを解釈することを防ぐことでユーザー中心デザインが可能となる。
ここで集めたい情報について整理すると、下記2点である。
- 既存UXと利用文脈の把握(自社サービス理解、競合調査・分析)
- サービス市場の把握(市場調査)
既存UXと利用文脈の把握は既存のユーザーがどんな利用文脈でどんな体験をしているかを知ることであり、現状の把握を行うことは最も堅実でリーズナブルな方法であり不可欠な工程である。
サービス市場の把握は調査によって行うが、現在アクティブユーザーがついているサービスにはユーザーのニーズが反映されているので、詳しく調査・分析することでサービス側からユーザーの利用文脈を推測することも可能である。
1-2 . ビジネス・企業特性を知る
あらかじめ組織の目指すものや企業イメージ、戦略の方向性を理解することは重要である。なぜなら、組織の良さや魅力、企業価値を最大限活用できる施策を行う方が最終的にユーザーにとって信頼できる良いサービスとなるからである。企業規模やイメージ戦略などによっても異なるがユーザーがその企業に期待していることというのは存在し、組織らしいサービスを実現することでユーザーの期待に応え、さらに期待を超えていくことはユーザーと企業との間に強い信頼を生む。
1-3 . デザインの処理論を活用する
適切に調査・分析を行い、目標とする利用文脈やUXを定められても実際にそれらの情報を活用しUIデザイン等のデザインができなければ意味がない。「人間中心デザイン(HCD)プロセスの活用」はデザイン工程をいかに進めれば人間中心にデザインが行えるかについての理論である。UXデザインは基本的には人間中心デザインの具体的な方法論に則りデザインを進めるが、それでは十分でない部分が出てくる。そういった場合、認知工学や人間工学、感性工学など関連学問分野からの知識・ノウハウが役に立ち、こうした分野の専門家がデザインチームにいることは強みとなる。
2. アウトプット
2-1 . 実現する体験価値の設定
これはUXデザインプロセスにおける初期段階でのアウトプットであり、具体的には「誰の、どんなときの、どんな体験価値」を実現するかを定める。
尚、〇〇できる製品、〇〇を実現するサービスと最初にコンセプトを決めることはUXデザインにおいて誤ったアプローチである。実際の利用文脈ではユーザーは機能を使いたくてサービスを使うわけではなく、ユーザーの目的を果たすための手段としてサービスがある。この体験価値はUXデザインにおける中心的概念であり、これを最初に設定することがUXデザインの最大のポイントである。
2-2 . 理想の利用文脈の設定
利用文脈とはユーザーがサービスを使う状況を意味するもので、実現する体験価値をどういった状況において実現させるかを想定するのがこの工程ですることである。一般的には2-1において設定した体験価値を実現するための行為や状況を逆算して考える。
2-3 . 理想のUXを実現するサービスの制作
2-1と2-2でコンセプトが明確になった後のこのフェーズにおいて初めて制作にとりかかる。このフェーズにおいて大切なことは、最初に検討した体験価値や理想のUXからぶれないよう常に確認しながら具体的な制作を進めることである。
実際にはプロトタイプの作成とユーザー視点での評価を繰り返し行い、徐々にデザインの仕様を明確にしていく。
2-4 . UXを実現するサービスを提供する仕組みの設計
UXデザインはサービスを提供する際の仕組みを作ることまでがデザインの範囲であり、このことを理解しておくことは重要である。「形になればそれで終わり」ではない。
例えばWEBアプリの場合、更新体制や運用体制などがそれにあたる。チャットによるリアルタイムサポートを行うとなった場合、その受付対応時間の決定や対応マニュアル、クレーム対応マニュアルの作成や責任者の選定などそのデザイン対象に限りはない。