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構造化シナリオ法

by tagami

構造化シナリオ法はアイデアを3つの階層ごとにシナリオを書き分けつつ詳細化する。これにより「有効性と効率性」「ユーザーの満足度の高いサービスを実現できるビジネス企画」「ユーザー要求仕様」をまとめるシナリオ法の一つである。コンセプトからUXの視覚化までの過程として主流な方法である。

構造化シナリオ法は問題解決型のデザインアプローチではなく、ユーザーの体験価値や本質的ニーズに応えるような、これまでにないビジョン提案型のデザインアプローチを実現するための中心的な手法である。

<特徴>

  • シナリオを「バリューシナリオ」「アクティビティシナリオ」「インタラクションシナリオ」の3つに分けて書く
  • それぞれのシナリオには「扱う情報」と「扱わない情報」が決められている。扱わない(記述しない)情報をあえて決めることで新しい解決策の可能性を常に残しながら検討を進めることができる
  • 3つのシナリオは、ユーザビリティの有効さ・効率・満足度それぞれに対応しており、シナリオの段階からユーザビリティ評価を行うことができる
  • 3つのシナリオには、それぞれの段階で検討すべき項目を整理したテンプレートが用意されており、それを活用することで必要なレベルの検討が行える 

シナリオを下記の3つに分けて書くのが最大の特徴と言える。この①〜③をこの順番で抽象度の高いビジョンから具体的なインタラクションへと変化していくように記述する。②と③は必要に応じて行き来しながら記述していけば良い。

①バリューシナリオ
体験価値を扱う(シーンを横断しユーザーが感じる価値のみを記述する)
 - サービス自体は記述しない
 - ユーザーの行為は記述しない

②アクティビティシナリオ
ユーザーの活動・行為を扱う(利用するシーンごとに、ユーザーの行為を中心に記述する)
 - サービスは登場するが操作は記述しない

③インタラクションシナリオ
操作を扱う(タスクごとにユーザーが行う操作を記述する)
 - 画面デザインは記述しない

記述しないことを明確にしていることは意義深く、必要な部分での反復サイクルを可能にする。行動と操作を混在させた場合、ユーザーがやりたい目標と得られる結果に対する良し悪しの判断と、実現手段に対する良し悪しの判断を分けることができない。ここが分けられているとどちらかだけを修正することができる。

尚、具体的な技術についてはここでは扱わず、企画提案書の中で言及することとなっている。

目的

  • 目指とすべきUXを説明する物語としてシナリオを作成することで、開発関係者に目標とするUXを共有しやすくする
  • 3段階でシナリオを書き分けることで、それぞれの段階での評価と修正の反復プロセスを行いやすくし、徐々に仕様を詳細化できるようにする
  • 体験を実現するアイデアなどを自由に発想することができ、よりユニークで革新的なサービスを検討しやすくする

ポイント

ポイントは実現する体験価値・本質的ニーズを感じられるようなシナリオになっているかである。また各シナリオにおける作成のポイントを下記にまとめた。中でもアクティビティシナリオを描くのは難しいため分量も多くなっている。

バリューシナリオ

「想定ユーザー群を示したキャスト(複数のペルソナ)」と「目標とする体験価値」、「提案するサービスの概要」の3つを記述したものである。キャストは属性層、体験価値は価値層、提案するサービスの概要が行為層に位置付けられる。(ユーザーモデリングの3階層

バリューシナリオとアクティビティシナリオの構造的な位置関係とユーザーモデリングの3階層を理解しておくとこの段階にて行う目的が理解しやすくなる。

アクティビティシナリオ

行動の情報をシナリオとして行為層に追加し、キャストも主要なペルソナに絞って具体化する。ここで行動のシナリオは単にユーザーの行為を書くだけでなく、属性層のペルソナと価値層の体験価値を結びつけるように利用文脈を考慮することがポイントとなる。アクティビティシナリオを書く目的は、ペルソナが利用文脈においてその仕組みを使うことで、目標とする体験価値を形成する過程を描くことである。

3つのシーンに沿って一連のアクティビティシナリオを書いていく。

使用前:
サービスとの出会いのエピソードがあり、それによるサービスへの期待

使用中:
実際にサービスを使うエピソードがあり、サービスへの理解が深まる。事前期待と照らしてどんな感情を抱くかまで書く。

使用後:
この体験を踏まえてこのサービスが自分の生活にとってどんな意味があると位置付けるか、ユーザーの主観的な視点での評価が語られる。

実際の利用体験では、体験価値が形成される過程でのユーザーのモチベーションの変化や出来事に対する心理的な反応が関わってくる。そのためユーザーのモチベーションや反応など感情的な側面を記述することが望ましい

また、アクティビティシナリオではサービスの様子は不明のまま書くが、サービスのことを「それ」や「その仕組み」と呼ぶと良い。あえて素っ気ない呼び方をすることで詳細を意識しなくなり、ユーザーの理想的なUXを検討することができるようになる。

シーンが違う場合はまた上記にあげた3つで1セットのアクティビティシナリオを描く。ただし2回目以降の使用前の意欲は、初回の利用経験をふまえ、「こういうことができるサービスなら(前回までの理解)、きっとこんな風にも使えるに違いない」といった、意欲の調整を中心に描く。

さらに、アクティビティシナリオを書くにあたっては、サービスの使い方の説明になってしまわないよう注意が必要である。あくまでも目標とする体験価値を形成する過程を文脈を考慮しながら書くのである。その際のチェックポイントとして下記を参照すると良い。

<アクティビティシナリオを書くにあたってのチェックポイント>

  1. 利用文脈に沿ったモチベーション:ペルソナの目標と利用文脈に基づいた自然な利用のモチベーションが描かれているか(予期的UXに相当)
  2. 典型的な問題シーン:ペルソナの利用文脈において、典型的な問題となるシーンを取り上げて描いているか(エピソード的UXに相当)
  3. ペルソナに則った利用の反応:利用に対するペルソナの反応が描かれており、その反応がペルソナの目標や特徴とと合致しているか(瞬間的・一時的UXに相当)
  4. 継続利用のモチベーション:利用後の効果に対するペルソナの反応が次の利用に対する素直なモチベーションへとつながっているか(次のエピソード的UXへの意欲)
  5. 製品存在への肯定:ペルソナがその製品やサービスを正しく理解できたときに、サービスの存在および利用過程に愛着を持てるような反応を描けているか(累積的UXに相当)

「アクティビティシナリオのチェックリスト」
安藤昌也(2016)『UXデザインの教科書』より

5番の製品存在への肯定というのは、その製品の存在を「ありがたい」「他の人にも勧めたい」「この企業が好きになった」などと感じるといった感情的側面である。また、どの会社の製品でもいいと思うような製品はUXデザインのプロセスで開発する必要はなく、こういった感情を抱かせられるような「良いもの」を目指すのがUXデザインである。そしてこれはビジネスのエコシステムとの整合性が検討されたUXコンセプトに基づいたものであれば書くことができるはずである。

アクティビティシナリオはストーリーボードや9コマシナリオとして視覚化表現することができる。

インタラクションシナリオ

実現するアイデアをなるべく具体化してわかりやすく表現する。インタフェースのふるまいとそれをユーザーがどう認知するかを中心に書く。

参考文献