ヒューリスティック評価は、インタフェースデザインやHCDの専門家がインタフェースデザインにおいてユーザー操作の問題となりやすいポイントに関する経験則をまとめたガイドラインを参考に、ユーザビリティを評価し問題点を明らかにする手法である。
ニールセンによって提唱されたが、ニールセンは数多くのユーザビリティ問題を分析し、それらの問題の背景に潜在するユーザビリティの原則を抽出し、それを10項目の「10ヒューリスティックス」としてまとめており、専門家の経験に基づいた評価を行う際に客観性を持たせるためこの10ヒューリスティックを用いる。
尚、ヒューリスティック評価はニールセンのガイドラインを用いることから名付けられたが、この手法は30数年前のソフトウェアにおける経験則をまとめてあるものであることから、最近では10ヒューリスティックスを用いることはあまり多くない。Webやアプリでは対応できない問題が増えたのである。そのため、ヒューリスティック評価と呼ばず単にエキスパートレビューと呼ぶことが増えている。ただ、10ヒューリスティックスは、評価のためのガイドラインとしては十分でないにしても、ユーザーが誤りやすいデザインのパターンを人間の認知特性などを考慮しつつ整理したものであるためUXデザインにおいて有益であることに変わりはない。
一般的には、3~5名程度の専門家を選出し、同じ評価対象・評価範囲・ガイドラインにて評価を行い、その結果を持ち寄り「評価者ミーティング」を行い、問題点とその原因、改善の方向性についてレポートする。尚、用いるガイドラインは評価者間で統一さえされていれば、10ヒューリスティック以外でもよく、シュナイダーマンの8つの黄金律やISO 9241: 2006の対話の原則なども用いられる。
ヒューリスティック評価のメリットとしては、プロトタイプや仕様書など開発の早い段階から評価を行うことができ、ユーザー参加による評価と比べると短時間且つ低コストで効率的に問題点を発見できることである。ただし、専門家の確保は課題になる場合もある。開発の初期〜中期でヒューリスティック評価を行い、基本的なユーザビリティ上の問題点を改善したのちに、ユーザー参加による評価を行うことが望ましい。その理由は、ユーザー参加型の評価は実際には大きな問題にはならない部分を問題として指摘しすぎる可能性もあり、この場合効率が良いとは言えないからである。
ニールセンの10ヒューリスティックス
1. システム状態の視認性
システムは妥当な時間ないに適切なフィードバックを提供して、ユーザーが今何を実行しているかを常にユーザーに知らせなくてはならない。
2. システムと現実世界の調和
システムはシステム指向の言葉ではなく、ユーザーのなじみのある用語、フレーズ、コンセプトを用いて、ユーザーの言葉で話さなければならない。実世界の慣習にしたがい、自然で論理的な順番で情報を提示しなければならない。
3. ユーザーコントロールと自由度
ユーザーはシステムの機能を間違って選んでしまうことがよくわる。そのため、その不測の状態から別のインタラクションを通らずに抜け出すための明快な「非常出口」を必要とする。「取り消し(Undo)」と「やり直し(Redo)」を提供せよ。
4. 一貫性と標準化
異なる用語、状況、行動が同じことを意味するかどうか、ユーザーが疑問を感じるようにすべきではない。プラットフォームの習慣に従え。
5. エラーの防止
適切なエラーメッセージよりも重要なのは、まず問題の発生を防止するような慎重なデザインである。
6. 記憶しなくてもみればわかるように
オブジェクト、動作、オプションを可視化せよ。ユーザーが対話のある部分からほかの対話に移動する際に、情報を記憶しなければならないようにすべきではない。システム利用のための説明は可視化するか、いつでも簡単に引き出せるようにしなければならない。
7. 柔軟性と効率性
ショートカット機能は、上級ユーザーの対話をスピードアップするだろう。そのようなシステムは初心者と経験者の両方の要求を満たすことができる。ユーザーが頻繁に利用する動作は、独自に調整できるようにせよ。
8. 美的で最小限のデザイン
対話には、関連のない情報やめったに必要としない情報を含めるべきではない。余分な情報を関連する情報と競合して、相対的に視認性を減少させる。
9. ユーザーによるエラー認識、診断、回復をサポートする
エラーメッセージは平易な言葉(コード・専門用語は使わない)で表現し、問題を的確に指し示し、建設的な解決策を提案しなければならない。
10. ヘルプとマニュアル
システムがマニュアルなしで使用できるに越したことはないが、やはりヘルプやマニュアルを提供する必要はあるだろう。そのような情報は探しやすく、ユーザーの作業に焦点を当てた内容で、実行のステップを具体的に提示して、かつ簡潔にすべきである。