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エスノグラフィ(フィールドワーク)

by tagami

UXデザインにおいて、エスノグラフィとは人々の行為が行われている現場におもむき、フィールドワークを行い、利用文脈とユーザー体験を把握する調査全般をさすが厳密な定義などはない。人々の行為を深く理解することができるよう、さまざまな手法を組み合わせて行う。一般的には環境や行動を観察することに加え、インタビューも合わせて行うなどである。これは調査のテーマと焦点によって適切に組み合わせる。

特徴はかなり短期間の滞在でユーザーの情報を得るところにある。長いケースでも3〜7日、短いものは1人2時間の訪問調査を5~6人に行うなどである。短い分得られる情報に限度はあるが、UXデザインにおいては仮説的であっても短期間で適切な範囲についてのユーザーモデルや洞察を得ることが重要である。

目的

  • 対象となる行為が行われている普段の環境において、ある状況における物理的環境や人々の行動、ふるまい、反応に関する質的な情報、行為の意味や背景、原因などを解釈するための質的な情報を収集する。(質的な情報・・・数量などでは表現できないような情報、対義語は量的)
  • エスノグラフィで得られた情報をもとに分析を行い、人々の行為に関して体系的にまとめ、製品・サービスの開発につながる仮説の発見や機会の探索を行う。

限られた範囲で深い理解を得るためのアプローチには以下の3つがある。

  1. 調査対象の現象やユーザーの行為をある程度絞り込むとともに、対象者の体系的な選出を行うなど事前の調査計画で焦点を絞る
  2. 適切に、効果的にさまざまな調査手法を組み合わせる
  3. 情報収集だけでなく、担当者同士の振り返りや分析を適宜行い、調査の焦点を常に調整する

1点目について、調査対象者の絞り込みにはリードユーザー法やエクストリームユーザー法、SEPIA応用法などを用いて体系的に選出すると良い。

2点目はトライアンギュレーションと言われる混合研究法による一つによる調査計画を立てることによる。意味は三点測量である。明らかにしたい情報を得られるように組み合わせる。

3点目については、調査をまとめてやってしまうのではなく、1人分調査したらすぐに振り返りを行い、必要に応じて分析も行う。調査の観点を見直しながら行うことで少ない人数でかつ短い調査時間でも必要な部分のユーザーの理解を適切に深めることができる。

手順

手順1. 調査計画

プロジェクトの目的に基づいて適切な調査の焦点を設定し、調査対象者を選定する。ここでいう焦点とは、どのようなユーザーどのような範囲の行為を対象とするかである。これらを検討し、適切な範囲に絞り込む。一般的にプロジェクトの初期段階で明確になっているが、対象とするサービスに関する行為だけに限定せず、その周辺を含めてある程度広めに設定しておく方が良い場合もあるので検討が必要である。尚、広すぎも良くなく、その加減は難しい。

調査対象者の選定も対象ユーザーが一般コンシューマー向けなど多様性が高い場合はユーザーの広がりや多様性を考慮し、最適な対象者の設定をするために工夫する必要がある。

手順2. フィールドワークの実施

基本的にはユーザーの行為が行われている現場を訪問する。自宅を見られたくないなど諸事情で訪問できない際は写真やビデオの撮影を依頼したり、こちらで用意した場所にて同じように行為をしてもらうなど努力する。

主に現場の状況を観察することとインタビューを行うことが一般的である。作業手順がある場合コンテクスチュアル・インクワイアリーを用いると良い。また、特に行動の観察に力点を置いて実施する場合、エスノグラフィが行動観察と呼ばれることもあるが大きな違いはない。

予算の都合もあり1度のみ行うケースが多いが、少なくとも2段階にて行うのが望ましい。ある程度の人数を調査した後、仮でも良いので分析を行いそこで得られた気づきや疑問をもとにさらに調査を行うといった具合だ。

通常複数人の調査者で行うが、注目する点は調査者によって異なる。振り返りによって異なる視点からの気づきを共有することで観察の焦点の確認を行い、次の観察での焦点を調整することで、より豊富で深い情報を得られるようになる。

手順3. 事実の分析

フィールドワークを実施後、調査者が観てきたことや感想を述べて終わってしまっては意味がない。分析を行い体系的にまとめ、関係者が共有できる形でまとめを行わない限り良いデザインにはつながらない。

分析やまとめにはさまざまな方法があるが決まったものはない。プロジェクトによっても異なるがおおむね明らかにしたいことは下記である。尚、フィールドから得られた情報を調査者間で共有し、そこから得られた気づきをまとめておくことは最低限やっておく。

  • 人々の行為の全体像
  • 利用文脈
  • 本質的ニーズ(体験価値)
  • 暗黙のうちの価値観

分析方法としては下記がある

  • グラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)
  • 修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)
  • KA法

留意点

対象者やデータを比較し解釈を深める

比較することで価値観や利用文脈がより際立ち深く解釈することができる。リードユーザー法における先行ユーザーと一般ユーザーを比較するなどである。データ同士の比較でも意味をはっきりさせやすくでき、違いや共通点を意識して解釈を深めると良い。

行為の観察だけでなく背景や考えも把握する

行為を観察すると事実として行われていることが見えるが、そこに対してその理由や背景をインタビューによりたずねるとより深い行為への理解を得られる。そうするとさらに観察できる行為が増え、「観れば観るほどみえてくる」のがエスノグラフィの特徴である。

問いを立てながら行為を見る

フィールドワークでは「なぜこの人はこのようにしているのだろう?」といった具合に問うようにして観察する。ここであらかじめ仮説を立てておくことは必要だが、現場では仮説から一旦離れて観ることに集中する。仮説検証の観点で観てしまうと大切なポイントを見落としかねない。

一緒にやってみる

時間が許す限りで構わないが、調査者も対象者と共に行動をしてみてその中で理解を深める。一緒にやることでタスクの重要性や意識に関する課題などが見つかることもある。

関連手法

エスノグラフィで調査者が留意すべき事柄を体系的にまとめたものに、AEIOUフレームワークがある。

参考文献