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背景

by tagami

現在、UXデザインは国内外問わず様々な分野で注目され広がりつつあるが、特にWebサービスやアプリなどインターネットサービスに関連する分野では既にUXデザインに取り組み、実践することは常識となっていると言える。

この背景にはスマートフォンやタブレットの普及が起因している。スマートフォンは持ち歩いて利用するものであり、実に様々な状況で利用する。移動中の電車や家でくつろいでいるとき、カフェでゆっくりしているときなど状況に応じてユーザーのしたいことや使いやすさは異なる。これまでは、インターネットを用いるのはパソコンの前に座っているときと限られたシーンを想定して作ればよかったが、このように利用シーンが多様化したことで、様々な利用シーンに合わせたサービスを提供する必要が生まれ、これがUXデザインの重要性を高めた。

さらに、インターネットの使用がよりあたりまえになったことで世界の優れたサービスに接する機会が増え、さらなる良い体験を欲する欲求が高まったことも起因していると言える。

時代背景

ユーザーを中心としたデザインは20世紀中頃から次第に確立してきた考え方であり、それまでは技術や機能が中心のデザインが常識であったが、この技術や機能が中心のデザインに対して様々な場面において問題が浮き彫りとなる。

例えば、火災が起きた際に逃げ遅れた場面を想定する。火はそこまできている。必死に逃げていると、扉に差し掛かり、今すぐに扉を開けて逃げたいがドアの開け方がわからない。見た目にこだわっているようでドアノブのようなものが見当たらない。押しても引いても開かない。右側を押しても左側を押しても開かない。この扉は横にスライドする扉であったのだ。

この扉は、ほとんど力を使うことなく気持ちよく開けられるという機能を中心にデザインされたスライド式の扉であったために、逃げ遅れる危険性があるのである。

これはほんの一例に過ぎないが、間違ったデザインは時に命をも奪いかねない。こうしたデザインに対する信頼性・安全性の観点から、人間の特性を正しく理解し、人間に合わせたものづくりが不可欠であるとの認識が広まり、人間工学や安全工学、認知科学といった関連研究の分野の発展に繋がった。

歴史

コンピュータは1960年代から次第に企業において使用され1980年代からは一般的にも普及していった。このコンピュータの登場はUXデザインが求められる歴史的な原点ともいえる。

これに関して詳しく書くと、コンピュータとは直接知覚でき、画面表示を見ながら操作はしているものの、実際に操作している対象はユーザーが知覚できない内部の処理プロセスである。ユーザーが操作したことによる結果は知覚できるが、そのプロセスは知覚できない。

例えば、電卓にて「1+2=」という演算を実行するとする。
キーボードから「1+2=」というキー入力がなされたとすると、電卓の内部の処理は以下のようになる。

まず1キーが打たれると、データレジスタ1に記憶される次に+キーが打たれると、これは加減乗除の命令キーなので、命令レジスタに記憶される。同時に、データレジスタ1の値である「1」がデータレジスタ2にコピーされます。現段階で、データレジスタ1,2には共に1が、命令レジスタには+が記憶されている。次に2キーが打たれると、これも数字キーなので、データレジスタ1に前の値1に代わって記憶される....略

ユーザーは単にキーボードで1を入力しているだけなのだがこれはデータレジスタ1に入力された値「1」を記憶させるという行為をしているのである。

このようにユーザーはプロセスについては知覚できないが、「=」を押した後画面に表示される計算の結果である「3」は知覚するのである。電卓によって計算をするという行為をするにあたってユーザーにとって必要情報は「入力した数字と演算記号が正しく入力されているか」、とその「結果」のみでありデータレジスタに記憶される等のプロセスはどうでもよく知覚させる必要がない。このように電卓というのはユーザーがより使いやすいようにデザイン(設計)されているのである。

こうしたユーザーが使いやすく、無駄を省いたデザインをあたりまえのように感じられると思うが、1960年代におけるコンピュータ導入における労働者の意識は、労働環境の効率化が図れるなどではなくむしろ環境が悪くなるものとして受け止められていたという。

こうした環境を改善すべく同時期1960年代、ノルウェーを中心に参加型デザインの活動が行われるようになった。これは、企業内のソフトウェア開発に労働者自身が参加し、職場のより良いコンピュータ化をエンジニアと共に作り上げていく取り組みである。この活動に参加するのは新しいシステムのコアユーザーとなる労働者が中心で、まさにユーザー自身が作り出すことが重視された。

そして1990年代になると、参加型デザインの活動は、世界中の開発現場で注目されるようになった。

労働の現場を調査し問題発見、分析、解決するための方法論が生み出され、実践ノウハウが関心の的となった。1990年代後半にはソフトウェア開発における参加型デザインの多くの事例が蓄積され、有効な手段が明らかになっていった。現在UXデザインで用いられているデザイン手法の中には、参加型デザインから生まれたものも多い。

その後人間中心設計の国際規格が制定される。これはUXデザインの歴史の中でも重要な出来事となる。人間中心設計推進機構(HCD-Net)が設立される。UXデザインに関するさまざまな活動が活発化されていくこととなる。

参考文献

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