ユーザーとサービスとの関わりの期間はUXに大きな違いを与える。例えば過去に似たようなサービスを使ったことがある場合など、サービスの使用前の体験というのもUXにとっては重要な期間である。
UXを考えたり議論したりする際には、こうした対象とする期間を明確に意識しながら行うことが重要になってくる。
こうした期間に着目してUXを整理したモデルに『UX 白書』によるUXの期間モデルがある。このUX期間モデルでは、UXを体験の期間の観点から4つに分類している。(図)

1.予期的UX
予期的UXとはサービスを実際に使用する前の体験であり、例えば何か物を購入する前に広告や口コミ、Webサイトを見て実際に買った場合の体験を想像することがそれにあたる。
この体験の予想は、ユーザーが過去に類似の経験をしているか、提供企業へのイメージや印象などからも影響を受ける。利用前にイメージしていた通りの使い方ができるかといった観点などからこの予期的UXは他の3つのUXに影響する。
予期的UXは、サービスへの期待という形で評価が形成される。
2.一時的UX
一時的UXとはサービスを実際に使用している最中の体験であり、この体験は常に変化する。パソコンを使用していてフリーズしてイライラしたなど、ユーザーの反応は感情的なものになる。
一時的UXでは、主に直感的で感情的な反応に基づいて評価が形成される。
3.エピソード的UX
エピソードUXは、サービスを使用した後その体験を振り返る時の体験である。使ってみたら大変使い勝手が良く、目的もノンストレスで達成できたといった良い体験など、1つの体験エピソードとして語ることができる期間が対象範囲となる。このエピソード的UXは予期的UXで形成された期待によって異なる場合もある。また、サービスを利用するたびに蓄積されていくもので、サービスと関わり続ける限り良い体験をした、いつも通りの体験をしたなど繰り返される。これらの積み重ねがユーザーのサービスへの理解を深める。
エピソード的UXは、主にユーザーの行動とその結果に対する心理的な判断に基づいて評価が形成される。
4.累積的UX
累積的UXはサービスの使用期間全体を振り返るときの体験であり、利用期間の実際の長さとは関係はない。累積的UXは様々なエピソード的UXを含む。さらにはサービスに触れたり使用していない期間も含んだ全ての期間を対象とする。サービスとの出会いから現在までの関わりをどのように感じているか、である。
また、サービスの使用期間全体を対象とした評価なので、そのサービスを提供する企業や組織に対する印象が形成される場合もこの累積的UXの部類である。ここでユーザーからの信用を得ることは、次に新しいサービスを提供する際の予期的UXに影響する。
累積的UXは、ユーザー自身と製品の関わりを全体的に振り返ることにより、主に意味的・理念的な価値判断に基づいて評価が形成される。