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製品デザインから体験デザインへと開発アプローチが変わった実例を紹介する。

写真業界の例:コダック社 Kodak Camera

体験中心のシステム的アプローチを初めて行なったのは、遡ること100年以上前、カメラを作るコダック社によって行われた。「あなたはボタンを押すだけ、あとはおまかせください」という有名なスローガンがあった。

写真のプロセスは元来複雑であり、カメラを持っていてもその写真を見るには複雑な現像処理を行うか専門家に法外なお金を払う必要があった。そこでコダック社は100枚撮り終えたところで郵送すれば現像して写真を完成させてくれる所までをサービスとして提供した。

コダック社は、理想的な顧客体験を届けるためには、単に商品を売るだけでなく、継続的に顧客と関係を築く必要があることに気づいていた。カメラを一つの製品としてではなく、サービスの一要素として考えていたのである。まさしく製品デザインではない、「体験デザイン」である。

これは昔の話ではあるが参考になる例であり、製品デザインの発想から脱却するために次のように考えると良い。「人は何を成し遂げたいのか」「この行為がユーザーの生活にどうあてはまるのか」「どうすればこの期待に沿うことができるのか」

音楽プレーヤー業界の例:アップル社 iPod

コダック社のカメラの例は写真業界を転換し、体験中心のアプローチの先駆例としてよくあげられる。それと同様に音楽プレーヤー業界ではアップル社のiPodがあげられる。

それまで音楽を持ち歩こうとする場合の選択肢は、CDを何枚も持ち歩かなければならないCDプレーヤーか高価で使いにくいMP3プレーヤーかであった。

iPodはきわめて制限の多いデバイスであった。基本機能は、曲を選び・再生し・評価し、音量を調整する、だけだ。どの装置もそれ単体で何もかもできなくてはいけないと信じ込んでいたマーケターを尻目に、コダック社の例のように体験戦略によるアプローチをとった。理想とする体験目標は次のようであった。

「あなたの音楽(やがてはメディア)のすべてを、いつでも、どこでも」

iPodの一貫したデザインと開発に関わることすべてが、この一つの目標に向けられた。アップル社が優れていた点はやはり、外観やインタフェースといった製品のデザインだけでなく、音楽を聞く消費者のためのシステム全体をデザインすることにあった。このシステムとは「メディアの入手」「メディアの管理」「メディアの視聴」の3つの部分に分けられている。

メディアの視聴:iPod

外出先でメディアを再生する人が望む最小限の機能を届けることに的を絞る。

メディアの管理:iTunes

メディアの管理に必要なあらゆる機能を持たせる。iPodを持っている人は必ずコンピュータを持っていることが想定できるためにできた。音楽の削除や名前の変更、プレイリストの作成はコンピュータで行うのがはるかに効率的である。iTunesの存在がiPodをのシンプルでエレガントなデザインを可能にした。

メディアの入手:iTunes Music Store

このiTunesに組み込まれたオンラインストアを使うことでメディアの管理をするのと同じくらい簡単に、メディアを手に入れることができた。これまでの入手方法はCDを買ってきてデータを移すか、違法にファイルをダウンロードするかのどちらかであった。

このように製品の枠を超えてデザインすることで、機能を最も適した部分に集中させ、大事な利用シーンにおける不必要な機能を上手く外すことができた。そしてこの3つの要素は明確にわかれていながらスムーズに繋がっている。iPodをコンピュータに接続すると自動的に同期する仕組みがこれを最も良く表している。ボタンを押す必要すらない。

さらに、この3つの要素は互いにうまく補い合っており、どれかが上手くいくことで他の部分も強化される。互いに価値を高めう関係となっている。

こうした体験デザインを実現した結果、厳しい競争の中、メディアプレーヤー市場で60%以上という他を圧倒するシェアを誇っただけでなく、メディアダウンロード市場でもシェアは80%を超えることとなった。

焦点の維持

さらに言及しておくべき点として、アップル社はその理想とする体験を貫き通したことがあげられる。他社は音声録音やFMラジオ、Wi-Fi接続など機能を数多く提供してきており、この厳しい競争圧力のなかでiPodも他社に対抗して機能を拡張しても不思議はない。しかしアップル社はほとんど機能を追加することはなく、追加したのはポッドキャスト、テレビ、映画、オーディオブック、ゲームなどの新しいタイプのメディアであり、基本機能は主として曲を選んで再生することであった。

応用:金融期間における実例

前提と現状

金融サービスの顧客向けウェブサイトのデザイン変更を行なった際の話である。同サイトは、口座の残高照会や送金、株取引などができるサイトであるが、ほとんどの顧客はコンピュータもインターネットも使えるにも関わらずウェブサイトを利用している顧客はわずか20%であった。顧客は何かしたいときには、些細なことでも担当アドバイザーに電話して頼んでいた。

そこで、利用文脈を探ろうと15名の自宅で訪問インタビューを行なったところ、ほぼ全員が毎月送られてくる明細書についての不満をあらわにした。明細書は長ったらしく、よくわからない情報が詰め込まれておりその量は20ページにもなり、誰しもが最初のページのそれらしい数字を見るとそれ以降のページは無視していた。

観察を行うと、タッチポイントを縦割りの部門ごとで扱っており、そして各タッチポイントにおけるデザイナーが連携をとっていなかったことがわかった。そのためそれぞれの部門ができるだけ多くのサービス(機能)を提供しようとしており、その結果、各タッチポイントに同じ機能が繰り返された。

要するに、ウェブサイトのデザインをいくら改善しようが、他のタッチポイントの出来によって弱められてしまうのである。毎月の腹立たしい明細書にがっかりする顧客が、企業に対して直接関わってもしかたがないという思いを強くする限りウェブサイトが本来の力を発揮しないのである。

どのタッチポイントも残らず、iPod, iTunes, Music Storeのように調和のとれた一つのシステムの要素として考える必要があった。

このシステムの重要な目的は2つである。「顧客に目標を達成させること」「機能をシステム内で最も適した場所に移すこと」である

解決案

①タッチポイント全般のデザインを改め、その際に顧客の体験に目を向ける。

②明細書を簡略化して顧客が知りたい重要な情報に絞る。

③アドバイザーは、株式ポートフォリオの計画や割り付け、大型ローンなどのように人間の頭脳の助けを必要とする難しい仕事のためだけに呼ぶようにする。

④ウェブサイトは明細書とアドバイザーという2つのタッチポイントの間を埋めるよう設計する。
・明細書に詰め込まれていた手に負えない内容を必要な時に呼び出せるようにする。
・人間を必要としない口座間の資金の移動や少額口座の開設といった単純な日常業務を行えるようにする。

このように上手く作業分担させることでタッチポイントそれぞれの強みを発揮させ、タッチポイントにとって必要のないふさわしくない機能を取り除き不満を解消することができたのである。顧客は複数のタッチポイントをまたがっており、組織が縦割りの部門でばらばらのアウトプットを顧客に提供している場合、一貫させる必要がある。

組織を変えることが必要不可欠であるが、それは企業規模が大きいほど非常に困難となる。それでも、真の成功を目指すなら、顧客と接する部分は残らず縦割り部門から飛び出し、顧客体験の全体像に本気で取り組む必要がある。大企業で特に問題なのが、効率と運用を最適化するような構造になっていることで同じサービスを繰り返し提供する際には有用であるが、「真に顧客に向き合う組織」とは対極になることを意味する。

コダック社やアップル社はこうした既存の組織構造を持っていなかったことは成功した大きな要因と言える。すでに確立されている業務の流れを統制しなければいけないソニーなどにはできなかった。

システムデザインはやりすぎもよくない

こうした一連のシステムをデザインしていると何から何まで細かく決めてしまいと思うかもしれない。しかし、体験の何もかもを管理することはできなく、そうすべきでもないということは忘れてはならない。体験をデザインすることに関しては喜びと横暴の境界なども紙一重であることは覚えておかなければならない。体験も、システムも、デザインや技巧の凝らしすぎは禁物である。

システムとはやがて退化するものであると認識しておく必要がある。そしてそうした際に、体験全体を崩壊させないようにしておかなければならない。

体験デザインにとって真の成功とは、すべてが計画どおりはこんだときに上手くいくかどうかではなく、何かがおかしくなり始めたとき、いかにきちんと動くかである。

これを試すにはシステムの利用者に足跡を残してもらうのが良い。そして最終的には、つなぎ目のないシームレス環境よりも、意味のある美しいつなぎ目を設け、自分のニーズに合った体験にカスタマイズできるようにするべきである。

最後に

一番重要なことは体験全体を成す各要素が互いに補完し合い、顧客のニーズ以上のこともそれ以下のこともしないことである。

所感

コダック社の事例はドナルド・ノーマンの著書でも取り上げられるなど、体験中心アプローチの先駆けとして語り継がれている。その時代は100年以上前なのに対し、その次の良い事例としてあがるのはiPodと2001年と記憶に新しい。

iPodが優れていた点はその洗練された見た目的なデザインとして評価されていることが少なくないが、その背景にはシステムとしての完璧な体験戦略があった。利用シーンに応じて不要な機能を取っ払ったデザインは実に理にかなっており、いちユーザーとしてその戦略には共感すると同時に圧巻である。

さらに、焦点の維持をしたことも成功の大きな要素であると言える。新規事業立案などを行う際、戦略をシンプルに一言で言えるか、は重要になってくると思うが、理想とするUXを定め、軸とすることがこれにあたり焦点の維持に役立つことだと感じた。

全てのタッチポイントが調和のとれた一つのシステムの要素であるとして考える必要がある、というのもまさに納得で、金融サービスにおける例によりその理解を深めることができた。明細書などは時代とともになくなっていくかもしれないが、メールなどに置き換えて考えても良いだろう。それを踏まえウェブサイトやアドバイザーの在り方などは参考になる。

Peter Merholzら (2008), SUBJECT TO CHANGE, オライリー・ジャパン

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魅力あるユーザー体験を作るには、それを使う人たちを深く理解する必要があるが、これは調査によって理解する。調査の多くはスタッフをただ忙しくするだけのものだが、よく考えられた調査は感動的な体験を作り出すのに役立つ

調査を行う目的は、アイディアを生み出すことアイディアを評価することの2つである。噛み砕いて言うと、「作るべきものは何か」、「どうやって作ったら良いか」、「どうすれば人は気にかけてくれるか」について明らかにするということである。

調査は、理論や仮説を実証するためにあるのでは無いことは肝に命じておく必要がある。優れたデザインを可能にするための制約と機会を明らかにするために行うものである。得られた洞察と共感が相まってアイデアの源となり、さらにそのアイデアを評価するための基準となる。

定量調査は、傾向を把握し、今「何が」起きているかをみるのに役立つ。手法によってはものごとがどのように起きているかの洞察を与えてくれるものもあるが、「なぜか」はわからない。企業にて行われる市場調査などは商品がどうあるべきかよりも、何を言いたいかに焦点を合わせがちである。

調査から得られた数値を解釈するには、そこに働いてる仕組みを知らなければ数値変動の良し悪しを判断することができない。その解釈に必要な情報は、定性的および文脈的な調査手法によって得ることができる。これらは仕組みを見つけ、それが「なぜ」起きているのかを明らかにすることを目的としている。定性的手法と文脈的手法の範囲は非常に膨大であるが両方の共通点を見ることでおおよその要領が掴めるだろう。実はこうした手法の多くが、共感を作り出すのにも適している。

定性調査では結果よりもプロセスに焦点をあてる。「何が」、「どこで」、「いつ」ではなく、「どうやって」、「なぜ」に焦点をあてる。どうやって、なぜといった質問が中心のため、調査を行う人は多くの時間を人と話すことに時間を費やす必要がある。また、ほぼあらゆる調査手法に何らかのインタビューが含まれているが、その際にする質問や動作について調査者間で厳密に統一させることや完全な台本を作る必要はない。

むしろ会話をする中で予想外の方向に向くことによって体験についての物語を引き出すことができる。

定性調査はその多くが文脈的である。つまり人の住居や職場、遊び場所の空間など状況の違いが最重要になる。定性調査は定量的なアプローチと比べ予想外のことを見つけることがはるかに得意である。この予想外の発見が独創的なアイデアの源となる。

調査の効果が思うように上がらない場合の特徴

調査の効果が思うように上がらない場合の特徴として、次の項目のなかで一つでも当てはまる場合、共通した原因があることが多い。

  • 顧客相手に同じ誤りを繰り返す
  • 製品の機能も有用性も完璧、しかし売上も利用数も伸びない
  • 製品の改善はあっても、革新がない
  • 山ほどの報告書があるが、何が書いてあるのか誰にもわからない
  • 調査チームは忙しくて金も使っているが、製品が大成功する様子はない
  • 製品のマーケティングもポジショニングもすばらしいが、結局出荷にいたらない 

調査の効果が思うように上がらない原因

①隔離された調査

多くの組織において、調査は他のデザイン・開発プロセスから位置的にも組織的にも離れたところにある部門などで行われる。そしてその調査によって得られた洞察が組織全体に行き渡ることはなく、組織のほかの人に真の共感が生まれるチャンスがほとんどない。調査レポートが渡された後、そのレポートは一度読んだら棚に放り込まれ、その後の開発プロセスに使われることはなく当然効果はあがらない。

②まとまっていないレポート

調査報告書というのは、大抵数十センチにもなるほど分厚く、調査結果をまとめておくものとして効果的ではない。デザイン調査に求められるのは、明確な方向性を呼び起こし、指し示すことであり、それらの調査の結果を共有する媒介は人を引きつける魅力と力強さがなくてはならない。洞察を与えるだけでなく、共感を促すものでなくてはならない。

調査報告書の価値は、ファイルの厚さに反比例する。

ウィルキンスの法則 – Todd Wilkens

③市場調査に頼りきっている

市場調査とは市場または潜在市場を理解することに重点を置いた調査であるが、多く場合に焦点が、消費者の反響を得るためのストーリとアイデアを発見することだけに向けられている。優れたマーケティングと広告は成功のために重要な項目の一つではあるが、最終的に企業が行なっていることは、製品やサービスを作って売ることである。本質は、良い製品やサービスを作ることにあり、デザインに関する調査は市場調査と根本的にプロセスが異なる。

要するに、マーケティングの調査の長所を活かすことは重要で、限界を打破するためにも役立たせると良いが、それだけでは不十分であるということだ。

真に効果的な顧客調査は、従来型のマーケティングアプローチとデザインアプローチの両方を使うことである。

調査を効果的に行う基本原則2つ

①調査が「組織コンピテンシー」として扱われる

一貫性のある体験を提供するためには、調査を個人やグループ、部門などの仕事としてではなく、組織コンピテンシーとして扱うべきである。

コンピテンシーとは職務や役割において優秀な成果を発揮する行動特性のことで、社内の人材育成や評価基準などに活用される。つまり、調査を成果をもたらす組織行動特性(専門知識や技術、ノウハウ、基礎能力など)として位置付けることである。さらに噛み砕くと、何が社員を「仕事のできる社員」にしているのかという基準の一つに「調査」に関する能力を含めるということである。

結局のところサービスを作るのは調査員ではなく、組織全体であるので調査で得た洞察を調査を行なった部門にとどめておくことなく組織全体に伝えることがきわめて重要である。

体験中心の製品が成功するかどうかは、共にユーザーを理解し、体験への視点を共有している人たち全員にかかっており、デザインチームはこのことを組織全体に伝えるという重大な責任がある。

②調査結果が実行可能かつ永続的である

実行に移せない調査は、当然開発する製品やサービスに大した影響を与えることはない。さらに、永続性のない調査によって得られた洞察などは調査報告会議後に残らず、次回行う調査などで顧客に何度も同じことを学ぶはめになる。この実行性と永続性を持たせる方法については後述する。

調査を効果的に行う手法:混成方式

定性調査の重要性について見てきたが、定性調査はそれだけでも不十分であり、最適なのは定性調査と定量調査を組み合わせることであり、これを混成方式と呼んでいる。定性・定量調査はいずれも単独では混成方式ほど広範囲にわたる洞察やデザインの発想は得られない。ここで、Adaptive Path社が多くのプロジェクトに用いて成功したアプローチを紹介する。

「市場細分化をインタビューやフィールド調査と組み合わせることによって顧客の全体像がよく見えてくる。」

自社で行なった調査データもくしは調査会社から購入したデータの定量分析に基づいて行われた市場細分化によって作られたセグメントは、人口統計情報だけでなく基本的な行動も捉えており、特に購買とメディア消費に関する行動がよく表れている。元になる母集団も大きく、安心してこのパターンをインタビューやエスノグラフィなどの定性調査を計画する出発点として使うことができる。

元からあった定性調査から始めることもあれば調査票を作ることもある。この混成方式には定性調査によって顧客との関係の理解が深まった後に調査のデータを精査すると、観察された行動や態度がどれほど一般的であるかを調べられるというメリットもある。

調査をデザインプロセスに組み入れる

開発のプロセスに調査を組み入れることは効果的な戦略である。まずデザインチームによる調査を信用してもらう必要があり、そのためにプロセスに巻き込むことで調査結果の出所を明確にし信用を得ることができる。これは調査を組織コンピテンシーにするために最適な方法である。

また、定性調査では「そこに居る」ことがプロセスの一環として必要不可欠である。顧客に何が起きているかを実際に目の当たりにすることで顧客への真の理解・共感を得ることができる。共感を生むためには最も確実な方法と言える。報告書やビデオでも共有することは可能であるが、同じ場所に居ることは明瞭なコミュニケーションが可能となる。

調査をデザインプロセスに組み入れることで共感が生まれることとなり、これが永続性行動性を高める。

デザインプロセスに組み入れるその度合いについては、組織によってさまざまであるが、その度合いがどんなわずかでも役に立つ。デザインプロセスを組み入れる度合いを示した図が下記である。

SUBJECT TO CHANGE (Peter Merholz, 2008)をもとに作成

バックグラウンド・プロセス
左端のバックグラウンド・プロセスとは例えば、「人間と習慣(People and Practices)」というグループを作り、研究開発部門に社会科学者を雇うなどである。これはIntel社の事例であり、同社は組織を改変し調査を会社の取り組みの中心に置き、あらゆるプロジェクトで社会科学者とデザイナーが密に連携しながら仕事をしている。

全員がフィールドへ行く
一方右端はAdaptive Path社が行なっていることでもある、調査への「全員参加」である。組織のあらゆる部分の人たちが、フィールド調査・分析作業・調査結果の共有などに参加する。

配給
中心部分の配給は、他の部門に行きプレゼンテーションを行うことによって調査結果や物語を共有することを意味する。

同じ部屋に席がある
同じ部屋に席を設けることも効果的であり、サムスン社は調査員とデザイナーを意識的に同じ部屋に席を設けた結果、協働作業の機会が生まれ非常に密に連携することとなった。

効果的な調査の後は本当に役立つアウトプットを残すこと

調査への全員参加が重要だと述べたが、社内の重要人物になるほど最小限の関わりすら不可能ということも往往にしてある。巻き込めない場合調査の過程で作られたアウトプットと成果物を完璧にするほかない。そうした場合、次の3点を重要な特徴として留意する良い。

  • 明瞭で無駄がなくわかりやすい
  • 読む人を魅了する
  • 背景にある物語を伝える

成果物で人を引きつけるのに特に効果的なのは、ペルソナを使うことである。ペルソナは顧客やユーザーの典型であり、代理として振る舞うことができる。

アウトプットにペルソナを用いることの有用性

ペルソナを作ることは目新しい手法でもなく軽視されることもあるが、よく考えられたペルソナは、洞察を伝え共感を誘うのに効果的な方法である。

効果的なペルソナはエスノグラフィ的な調査から生まれるものであり、統計データや市場セグメント、顧客に対する直感などからは生まれない。そしてペルソナはリアルで完全かつ具体的でなくてはならない。グループやプロフィール、ステレオタイプなどではなく、それぞれに一個人としての名前をつける。

ペルソナは、わかりやすくするためにほぼ1ページに収まるように作り名前や写真、鍵となる行動と動機付けなども含める。このペルソナが現実の問題を抱えており、これが人を引きつける。よく出来たペルソナは、実際に調査に協力した人の言った言葉を混じえながらも、自分の言葉で自らを語る。また、調査チームやデザインチーム以外の従業員にも奥深い影響を与え遠大な効果を持つこともある。ペルソナはリアルに感じられ、人間的な繋がりを作ることができるため効果的であり企業の進化に結びつく。

尚、この段階におけるアウトプットは洞察と共感を共有するための方法のほんの一部分にすぎず、ペルソナも単体では役に立たない。さらにみんなの協力によって広く共有されて初めて効果が発揮されるものであり、調査を融合するための努力を惜しまない組織によって最も力を発揮する。

所感

テキスト部分においても調査の重要性については触れてきたが、経験に基づいていることもあり、よりリアルに調査の重要性の理解を深めるのに役立った。テキスト部分においては性質上、網羅的になってしまっているおり、ここで取り上げられていることはその中でも重要なこととして捉えて良いだろう。

文脈の重要性や組織が一丸となってユーザーと向き合うことはやはり最重要項目となる。これまで当サイトでは述べられていない内容として、調査を組織コンピテンシーとして扱うことや実行可能且つ永続的な調査結果を得ることなどは、一朝一夕で簡単に実践することは難しいが重要な課題となることがわかった。

また、融合レベルも様々あり、組織の特性をよく理解した上で、適切な距離感を保ちながら工夫して行うことが大切だと感じた。急に近づきすぎることや相手のことを考えず時間を取ってしまうことは避けながらあくまで良い関係の上で成り立つよう工夫したい。

調査結果レポートのクオリティについても非常に共感でき、組織が大きいほど、どうしたら読む人への負担を減らし、さらには魅了することができるかについて徹底的に詰めることが重要だと感じるとともにデザイナーの腕の見せ所でもあると感じた。

こうした取り組みは、あくまでユーザーへの体験をデザインするためのプロセスであるが、組織全体の協力を得ることが不可欠のため、組織内のノン・デザイナーの方の開発体験をデザインすることも重要だと感じた。(ノン・デザイナーの方に分厚い調査レポートをただ渡すことは、ノン・デザイナーにとって良い体験とは言えない。)

これまでUXデザインにおける中心的概念として、ユーザーのためのデザイン(Designing for Users)を軸としながらビジネスにおける要求を満たすデザイン(Designing for Company)が重要であると述べてきたが、そこに組織を巻き込むためのプロセスのデザイン(Designing Process for team)も含めても良いかもしれない。

UXデザインにおける中心的概念:
Designing for Users, Designing for Company, Designing Process for team.

本記事のまとめ

  • 定性調査と定量調査はどちらだけに頼るでもなく両方ともを効果的に用いいること。
  • 調査を開発するプロセスに組み入れ、調査によるユーザー理解・共感は開発を行うチームみんなで行うこと。
  • レポートはわかりやすく、簡潔に、見る人を惹きつけられるようにまとめること。
  • レポートにおいても、ユーザー中心デザインの軸を作るためにもペルソナは有用であること

Peter Merholzら (2008), SUBJECT TO CHANGE, オライリー・ジャパン

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Adaptive Path社は体系的なデザインプロセスを確立する以前、顧客調査として標準的なユーザビリティテストを行なうが、テストの参加者がその実験室に赤ん坊を連れてきたことをきっかけに、もっと定性的で文脈に沿った調査方法をとるべきだと気づくこととなる。この時テストしていたサービスはサイトにレビューを書き込むと報酬を受けられるという類のものであった。

このとき、この調査協力者はテスト中、何度も赤ん坊をかまってやらないといけなく、開発チームが連続的だと考えていた動作は何度も中断と再開を繰り返されていたのである。さらに、この女性は赤ん坊を抱えているゆえ片手だけで作業を行なっており、何度も中断させられながら苦労してシステムを使う姿にチームは共感を覚えることとなる。

この「共感」が調査対象となっているものの問題や目標、作業の枠を大きく超え、深くユーザーを理解することを可能にした

また、開発関係者も同じようにシステムを使ってみたり、使っている人を観察することによって会社が一丸となって真の共感を持てるようになる。組織として共感を得ることは、習慣や前提知識なども異なる部署を超えたやりとりにかかる時間コストを大きく下げることとなる。

こうしたことから、顧客に対する真摯な共感を持つことの方が何週間にわたるユーザビリティテストよりも役に立つ、そして顧客の理解はデザインチームだけでなく組織一丸となって取り組まなければいけないことだと結論づけた。

共感

デザインを行う際、共感と同情を区別することはきわめて重要である。

同情とは
①憐れみ・・・自分と相手に距離が置かれ、敬意はなく、優越感が生まれる。
②同源・・・ほとんど同一の状況にある人同士であまりに近すぎて客観性が失われる。

共感とは
人やグループの主観的体験を、身代わりとなって共有することによって理解しようとするものであり、他の人をさらに深く理解するための「バランスのとれた」好奇心のようなものだと言える。体験を共有することで憐れみをなくし、身代わりになることで客観性を保持する。共感は言葉にできる範囲をも超えることがある。

製品やサービスを作ろうとする際、様々な要素が複雑に絡み合ってくるにつれ、顧客が遭遇するあらゆる場面や状況を調べあげることが不可能になってくる。仮にできたとしても、行動の観察を繰り返すだけでは、一貫性のある魅力的な体験を作ることはできない。その行動の背景にある動機を直感的に理解できるようになる必要がある

直感とは、成功のための重要な要因の一つであるが、これは行為の真っただ中にいることによって養われる。この直感が養われると説明困難な事象についても迅速かつ正確に判断ができるようになる。直感を養い、共感を見つけることは行動の外観だけでなく、行動を駆り立てるメカニズムを把握するのに役立つのである。

共感の持つ力はデザインに限った話ではなく、経営者やマーケター、カスタマーサビス担当者にとっても極めて有効である。この共感の重要性はハーバードビジネスレビューといった主要経済誌にも取り上げられた。洗練された共感は極めて強力で、組織に奥深く影響を与えることができる

共感をすることの影響力はこれだけ大きいにも関わらず、これは特別な才能を持つ人しかできないような能力ではなく、誰しもができることであり、訓練によって養われ磨かれるものである。

意識的に共感と向き合うことは優れた人間中心デザインの本質が見えてくることとなる。また、共感を高めるために必要なのは人を人として理解することである。人を市場セグメントや人口統計として見るのではない。

人間社会はますます複雑になってきており、従来のような顧客の生活を単純化しすぎたアプローチは通用しない。顧客同士のつながりは密になり、テクノロジーやメディアの知識が深まるにつれ、市場での顧客の力が強くなっており、企業と顧客の接し方は大きく変化している。(M Castells, 1996)
こうした環境で生き残るために、組織は顧客の本当の姿をこれまでにないほどよく理解する必要がある。

人を理解する

人間の行動は気まぐれで移ろいやすく、内外的要因など様々な要素が関わっており非常に複雑である。そのため、ユーザーや顧客を理解する際には、そのユーザーや顧客とは紛れもなく自分たちと変わらない人間であること、そして日常生活の境界があいまいであることは覚えておく必要がある。

ここでいう「日常生活の境界があいまい」とは、例えばボディウォッシュで髪を洗うなどである。これは実際にプロクター&ギャンブル社が何人もの男性のシャワーをモニタリングしたことで明らかになり、新製品としてシャンプーとボディウォッシュを合わせたものを開発した。このように、人間は日常的に暗黙の境界や区分をまたいでいるということは覚えておく必要がる。

人を理解するための第一歩は現実に即して人を見ることと言える。その観点としては、感情、文化、文脈の3つである。

感情

成功した組織の大半は、感情が重要であることに気づいている。これまで基本的なやり方の調査では感情を扱うことができなかったが、認知科学支持者でさえ、感情や情動の重要性に取り組み始めたのである。さらには、デザイン界でおそらく世界一有名な認知科学者であろうドナルド・ノーマンもこのテーマで本を一冊書いた。その著書『エモーショナルデザイン』では、われわれが自分自身を理解するように顧客を理解せよということが述べられている。

脳について、そして感情と認識が完全に絡み合っていることが化学の進歩によって明らかとなり、感情というものが日常生活にとっていかに重要であるか、いかに価値があるかを確信づけることとなった。

文化と文脈

人間とはほぼあらゆる体験に意味をもたせようとする。お気に入りの靴一足や初めてもらうお給料など生活は物語と意義に満ちている。さらに人はどこに誰といるかによって製品やサービスの使い方を変える。製品・サービスが同じでもその状況が変われば体験は変わるのである。これがここでいう文脈である。

また、民主主義制度の成功が法律や機構と同じく社会の意識の価値に依存することはなど文化も影響し、今や、文化と文脈を理解することは、ビジネスの成功にとってさらに不可欠となった。そして、デザインプロセスの中でもさらに明確な位置を占めるようになった。

キンバリー・クラーク社は、赤ん坊を抱える親がお尻拭きを取るときめったに両手があかないことをフィールド調査で知り、片手で開けて片手で取り出せるケースを開発した。調査員は母親がおむつを替えたり風呂に入れたりする間中、赤ん坊を抱くのに苦労しており、片手は常に赤ん坊に添えていることが洞察として得られたのだ。

このように顧客が製品をどう使っているかという文脈を理解することは顧客が求める製品やサービスを生み出すのに重要な要素となる。

コラム – Adaptive Path社であった事例

ある大手銀行がオンラインバンキングシステムのデザイン変更をしたいと申し出た。Adaptive Path社はこれを受け入れ、プロとしてユーザー中心デザインを行おうとまずは資産運用生活を理解するために顧客に対して十分なインタビューとフィールド調査を行なった。

銀行がやろうとしている目標とそれを実現するための課題をについての詳細なモデルを作り、立てた目標を効率良く達成するためのデザインをすることに勤しむ。

分析も終盤に差し掛かったところでデザインチームはあることに気づく。

それは、インタビューをした時のこと、調査者を惑わす人が何人かいた。この人たちは自分の資産運用がうまくいっているかどうかについて、調査者にも「自分にも」嘘をついていたのだ。

ローンや信用限度、新規口座といった金融商品を扱う際、人は賢い消費者として振る舞う。さまざまなオプションを他の商品や他の銀行と比べ、利回りや手数料などを調べるが必ずある時点でそれ以上先へは進めないという段階に達する。

デザインチームが調査からわかったことは、みんな訳もわからずやっていた、ということだった。賢い消費者らしい動きをしてはいたが、良い結果が何であるかをわかっていなかった。

さらに探究するとこれは金融機関につきものの一連の不安が要因だとわかった。金融機関である一定以上のことをしようとすると、知識が必要になるが、そういった知識を得るための情報源も機会もなかったのである。

これらは何が人の行動を「駆り立てているか」に真正面から取り組んでいなければ得られなかった結果であり、課題と目標の影に何かが起きていることを気づかせてくれることとなった。

所感

ユーザー調査の重要性はもとい、「共感」というのがこれほどまでに人間中心デザインにおいて重要な要素であるとは正直思ってもいなかった。実例に基づいていることが説得力を増し、赤ん坊を抱える母親の例はその場にいなくとも共感してしまう。

デザインチームだけで製品やサービスを作ることは不可能である。他の部署とのスムーズな連携は必要不可欠であるが、こうしたユーザーへの理解・共感を組織で共有することは、皆でより良いサービスを作ろうという組織の一体感を作ることは想像に易い。

デザインチームがデザインの重要性を説くつまらない勉強会をするより、まずは皆で実際にユーザーを見て、共感を得ることが大切なことがわかった。

顧客を取り巻く環境とは実に多種多様であり十人十色であり、常に変化し続ける。それに伴い、製品・サービスとユーザーとの関わり方も変化し続けることとなる。この流動的な関わりの中には感情や文化、文脈といった数値化できない、さらには人それぞれで言語化もできないような要素までもが関わっている。

ユーザーとサービスとの関わりに影響を与える要因を全体論的に探究し、ユーザーへの深い理解を試みること、それが人間中心デザインの真髄と言えるかもしれない。

キーワード
全体論的定性分析
答えは現場にあり、百聞は一見に如かず

Peter Merholzら (2008), SUBJECT TO CHANGE, オライリー・ジャパン

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Adaptive Path社はデザインには次の要素があると述べたうえで、ビジネスを成功させるためには、デザインが「組織コンピテンシー」になる必要があるとしている。

(コンピテンシー:仕事の役割に対して期待される成果をあげるための行動特性)

<共感>

デザインは人の役に立たなければならない。よってデザインするためには、今デザインしているものが人とどう関わるかを理解する必要がある。

 

<問題解決>

デザインが力を発揮するのは、結果が流動的で、多くの利害関係者が関わり、境界がはっきりしない、そんな複雑な問題に対処するときである。

 

<アイデア創出とプロトタイピング>

デザインが作り出すのは、抽象的であれ(設計図、青写真、ワイヤーフレーム、概念モデル)、具体的であれ(プロトタイプ、実物モデル)「物」である。デザインが創造的行為であるからには、実際に何かを作り出す必要がある。

 

<選択肢を見つける>

デザインでは、新しい選択肢を作ることに比べて、既存の選択肢を分析することが少ない。あるときは既存の選択肢を新しい方法で見ることであり、またあるときはゼロから作ることを意味する。効果的なデザインプロセスは、一つの問題に対して解決策をいくつももたらすのが普通である。

Peter Merholzら (2008), SUBJECT TO CHANGE, オライリー・ジャパン

Apple社が特に、徹底的にデザインを活用することによって驚異的な成功をもたらしており、その原動力はCEOのスティーブ・ジョブズにあった。ジョブズは美しい解を見つけることについてこんな話をしている。

「最初に問題を見たとき、それがまるで簡単そうに見えたなら、あなたは問題の複雑さを正しく理解していません。やがて問題に突き当たり、それが本当は複雑だったことを知り、複雑きわまりない答えを出します。これは一種の中間点のようなものなのですが、ほとんどの人はここでやめてしまいます。しかし、本当にすごい人物は、鍵、すなわちその問題の根底をなす原理を探し続け、ついにはエレガントで本当に美しくて使える答えを出します。われわれがMacでやりたかったことがそれでした」

スティーブ・ジョブズ

体験こそが製品

パラダイムシフトのスパンはさらに短くなっている昨今、スマートフォンの普及を皮切りにこの10年は特に製品やサービスのあり方が全く変わるものとなった。日本においても近年になってデザイン思考が叫ばれているなか、Adaptive Path社は著書SUBJECT TO CHANGE第一版を出版した2008年に既に製品やサービスがもたらす「体験」の重要性に述べている。

世界は日を追うごとに不確実性が高まり、これまで長い間役に立っていた道具も使えない。

テクノロジーだけでは十分ではない。

機能を追加するだけでは客を呼べない。

現状の業務の中には絞り取るだけの効率化はもはや残ってないし、

製品から取り除くべき欠陥もない。

Peter Merholzら (2008), SUBJECT TO CHANGE, オライリー・ジャパン

不確実な世界で製品やサービスを提供する際、心に留めるべきは、顧客とその能力ニーズ・欲求を、うわべだけでなく深層まで向き合うことである。そしてこの留意点を肝に命じておく必要がある。これができたとき、そして顧客に心から共感できたとき、顧客にとって体験こそが提供されるべき製品・サービスであり、そして顧客の真の関心事は体験にしかない、ということに気づくであろう。

真に必要なのは体験戦略

このご時世にビジネスを成長させるにあたり、テクノロジーや機能、最適化の手段といった類のことだけに投資する価値はもはやない。自社のサービスによって顧客が得る「体験」にこそ価値があり、真の差別化要因である。この「体験」を作ることこそ、この変化し続ける世界で、探究して取り入れるべき戦略である

人の体験を構成する特質は以下である。体験の良し悪しは、この特質がそれぞれ満足できる対応ができていたかどうかを指す。

動機:
どうしてその製品を選んだのか、そこから何を得ようとしているのか

期待:
何かがどう働くのかという先入観

知覚:
製品が人の感覚にどう影響を与えるか(見る、聴く、触れる、嗅ぐ、味わう)

能力:
人が認知的、物理的にどう製品に関わることができるか

流れ:
時間とともにどう製品と関わっていくか

文化:
その中で人が行動するための規則(マナー、言語、慣例)、行動基準、思考体系の枠組み

ビジネスをするにあたり、競合優位性を勝ち取るために尽力することは往々にしてあるだろう。しかし、他のみんなが修得したことの上達を目標にすることを戦略とは呼ばない戦略とは意識的にライバルと違う戦術を選ぶことである。「機能」にフォーカスして他社と比較して劣っている機能を補填するといった他社と対等になろうとするようなことは戦略ではない。他社との対等、それはすなわち顧客から見たとき同じような企業となり、そこから得られる体験は陳腐で力もなく、消滅するか、マイナス面ばかりに目がいくようになる。

他社と違うやり方をして、その違いの価値を顧客に見せつけることを基盤とした戦略こそが、競争力のある戦略となる。優れた体験戦略とは顧客に示すことのできる違いを作り出し、それを長期間維持することによって他社よりもよい結果を残すことである。

また、単に業界ナンバーワンになることも戦略ではない。何が一番であるかは、まさしくそれを決める人次第だからである。重要なのは「重要な顧客グループにとって大切な一連のニーズに答えるユニークな価値を届けるにはどうしたらよいか(Michael Porter, 2006)」である。重要な顧客グループに対してどんな一番を感じてもらうかを考えることにある。(例えば、ストレス社会で心身ともに困憊している若年社会人に向けたリラックスをテーマにした宿泊施設は休日の活用法として一番癒される、など)

さらに、差別化の観点から述べると「新奇性」や「新しい」ことも、そこにふさわしい意味がなければ差別化とはならない。(例えばドローンとPCが一体となった空飛ぶPCが開発されたとしよう。空飛ぶPCは実に新奇であるがPCを空に飛ばしたい人はいないであろう。一方、ドローンとカメラが一体となった場合、それまで空撮はヘリコプターを用いなければならなかったのが誰しも低コストでハイクオリティな空撮を行えるようになった。後者はふさわしい意味があると言えるだろう。)

対等戦略や新奇性による差別化などによってもたらされる価値は低く短命である。そのため、様々なリソースの制限などもあり容易ではないが、体験戦略への集中が重要となる。

体験戦略は様々な形態をとるが、中心となるのはビジョン(理想とする体験を表現したもの)である。

2008年時の成功事例としては、Google Calendarがある。それまでYahooとMSNでシェア65%を占め、Googleが2.5%という状況から僅か8ヶ月でMSNを抜きYahooとも僅差にまでつける。

効果的な体験戦略

体験戦略を持つためには確固とした計画が必要である。その体験が顧客、会社のどちらにとっても価値を生むよう実行、維持、管理する際の判断の指針となる。このようにして計画された体験には次のような特徴がある。

真の差別化。自社独自の事に関して、顧客視点からみた差別化ができる。対等な機能は体験戦略ではない。

 

顧客にとっていちばん大切なこと。このような体験を真に理解するためには、顧客の文脈で理解する必要がある。顧客が進んで関わりを持つのは体験そのものであり、それを作っているボルトやナットではない。

 

体験に投資し、他の数あるチャンスを管理するのと同じように体験を管理することができる。経営上の意思決定の際には、それが体験に及ぼす影響を考慮に入れるべきである。

 

養い、育むことができる。ただしそれは、企業が好むような統制された素地からではなく、本章のはじめで概説したように、顧客のきわめて人間らしい感性から生まれるものである。

Peter Merholzら (2008), SUBJECT TO CHANGE, オライリー・ジャパン

所感

こうしてみると、スティーブ・ジョブズが残した功績は改めて実に大きい。広義としてのデザインという言葉の本質やその重要性を実際に製品に反映させることで実証した。日本においては近年においてデザイン思考やUXデザインという言葉が普及・浸透してきたが、こうした概念を用いた製品・サービスの開発プロセスが今に始まった事ではないことが改めて明らかとなった。

デザインが提供するのは製品やサービスではなく、「体験」でありこのことにいち早く気づき、実践している企業が現在メガベンチャーとして飛躍的成長を遂げた、ということは想像に難くない。

モノやサービス、情報が溢れたこの世界において忘れがちになりつつある原点として、あくまでもこの世界はヒトで成り立っていること、そしてそのヒトのために価値を提供することの重要性、といった本質をついているように感じた。

UXデザインにおいてはサービス利用中以外の利用前・利用後も重要であり、そのことを表す「利用文脈」という言葉が出てきたこも印象深い。現在各所で言われているデザインプロセスを2008年の時点で明らかにし、体系的にまとめているAdaptive Path社の今後の動向は実に参考になるであろう。

 

Peter Merholzら (2008), SUBJECT TO CHANGE, オライリー・ジャパン

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Capital One社は金融サービスを提供する企業の中でもデザインに関して特に際立っている。技術革新と優れたデザインに専念しており、それは提供されているサービスに現れている。企業として顧客のニーズを満たしそしてそれを超えていくことにフォーカスしている。

同社は専用の研究所(Capital One Labs)さえ保持しており、これは企業内スタートアップアクセラレイターのようなもので、これにより煩雑でややこしい作業をすることなく成長と変革を起こすことができるようになっている。企業リサーチやテスト、ユーザーからのフィードバック等を重視することは業界最高のプロダクトを市場に投入するのに役立っている。そしてこうしてできたプロダクトの完成度はFintech企業のみならず全ての業界における企業のプロダクトへの水準をあげることとなる。

徹底したリサーチ

リサーチとフィードバックに焦点を当てた場合、それらから得られる学びを迅速かつ効率的に設計プロセスに取り込むための環境構築とそれを育んでいくことが必要不可欠である。Capital One社は、訓練を受けたUX調査者だけでなく、設計ストラテジスト(ノン・デザイナーとのやり取りを円滑にする者)および調査協力者(募集したユーザー)と協力して行なっている。

初期の調査段階のあと、スケッチとラフなプロトタイプを行う。続いてラボ研究が行われる。こうすることにより、ユーザーの前でアイデアを得ることそして反復設計をすることができる。この反復の回数はリリースまでの時間によって異なるが、おおむね3回以内である。この全体的なプロセスは、LabsチームのUXデザイナーと開発者の比率を高くすることで最も効果的になる。こうすることで、チームはフィードバックを迅速に総括してプロトタイプに組み込むことができる。

このように企業としてデザイン思考へ身を入れたことは、新入社員研修も含め企業全体の考え方としてデザインを中心的な構成要素として位置付けることに成功した。

Capital One社のようにデザインするには

上からの同意を得る

Capital One社には経営を司っているクラスの人間に業務報告を担当するデザイン担当の副社長がいるため、社内のデザインチームはエグゼクティブレベルの意思決定のためのテーブルにつく。

素早く計画する

Capital One社のチームはプロジェクトが開始されると、スプリント計画とストーリー機能の定義にすぐさま取り掛かる。この段階の調査と情報の収集は、今後のより自由なフィードバックの土台となる。また、これはプロジェクトが成長し繁栄するための確固たる基盤を築くこととなる。

自分にとってベストのツールを使う

Capital Oneには使用ツールの制限がなく、最高のパフォーマンスを発揮できるツールを選ぶことができる。そしてそれこそがフェアゲームであるとしている。

Will Fanguy(2018)How Capital One designs for customers first

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2016年1月23日に開催された「Service Design Network Japan Conference 2016」において米Adaptive Path社のHegeman氏が登壇し、デザイナーとノン・デザイナーとで共創するために必要なものとそのあり方についてその経験に基づき事例とともに講演を行なった。

当カンファレンスは、グローバルに議論されているサービスデザインのトピックや国内各社のサービスデザインの事例共有、パネルディスカッションなどを行うもので、3回目となるこの回のテーマは「日本でのサービスデザインの進化 -Evolution of Service Design in Japan- 」であった。

Adaptive Path社について

Adaptive Path社は、2001年の設立以来14年間、金融、コンシューマー、エネルギーなど各種セクターにクライアントをもつデザインエージェンシーであった。2014年10月にアメリカの銀行Captital One社に買収され、サービスデザインチームとして大手金融企業の傘下となる。Adaptive Path社は開催するカンファレンスやUXに関する考え方などに強い影響力を持っておりTwitterやAirbnb、Flickrなど錚々たる企業を取引先として持つ。

近年日本において見られるFintech企業とデザイン企業の協業の先駆けとなるような買収であり、こうした業界に携わる人間にとってAdaptive Path社の動向は実に参考になるであろう。

Adaptive Path社は公式サイトにて調査からマネジメント、体験戦略やビジュアルデザインなど9つのカテゴリーごとに講演の動画があがっており、ぜひチェックしておきたい。(Adaptive Path公式サイト

一方Captital One社については、1994年に創業された金融グループで、預金やローンなどの通常の銀行業務に加え、クレジットカード会社としての機能や支払い方法多様化などを進めるなかデザインへの投資を増やしており、Adaptive Path社には社内のサービスデザイン能力の向上をリードするよう求めている。

以下、Adaptive Path社のHegeman氏による講演の内容を紹介する。

デザイナーとノン・デザイナーは協業せざるを得ない

Adaptive Path社は大手に買収されたゆえ、多くの人と協働する機会が増え、JourneyやEcosystemなどサービスデザインに関連する用語が社内に浸透し始めたという。サービスデザインはインタラクションを通じて顧客体験とスタッフ・事業側での体験全体を対象としていて、サービス実現のためには多くの人の共通理解が必要である。特に、顧客・スタッフ・ビジネス(事業主)の三方の共感を得ることが必要である

サービス実現にはデザイナーとノン・デザイナーは協業せざるを得ない状況にあり、デザイナーとノン・デザイナー間のそれぞれの状況や立場によるギャップに着目したうえでそれらを大・中・小の3段階に分け、それぞれを橋渡しをするための観点について論じた。

小さなギャップを埋めるには共通言語化によるプロセスの共有

デザイナーとノン・デザイナー間におけるギャップが小さい場合においては「プロセス」「ツール」「共通言語」という3つの観点が重要である。

実際の例として神経外科診療所のサービスデザインのプロジェクトについて紹介している。このプロジェクトではデザイナー以外に看護師やエンジニア、副社長、実際の患者をも巻き込み、ソリューション開発を行なった。そこではボードゲームのようなものを使ってゲーミフィケーション(ゲーム性)を取り入れたり、ジャーニーマップによるワークショップを行なったりなど、協働するためのツールや環境を整備することで立場の違う参加者がプロセスを共有しやすい仕組みを作った。

中程度のギャップを埋めるには明確な役割分担による長期のコミュニケーション支援

中程度のギャップがある場合、重要なのはプロセスの可視化と各プロセスにおけるそれぞれの役割の明確な定義付けである。そしてこれは、長期的なコミュニケーションの支援にもつながる

また、従来におけるデザイナーがノン・デザイナーであるステークホルダー側に参加するというスタンスではなく、ステークホルダーからデザイナー側に参加してもらう方が有効であるとしている。デザイナーが参加するという場合、そのインパクトは短期的であり、デザイナーが去るとステークホルダーは元の慣れたやり方に戻ってしまうことがある。

大きなギャップを埋めるには、サービスの質を担保する組織構造が必要

プロジェクトを進めていく中で、多くの場合、遂行中に目の前に新しいことが現れるとそちらに気をとられてしまい、特に多領域に渡るサービスデザインにおいては、各専門家の意識を合わせることが重要である。軸をぶらさないための組織構造の必要性とともに、サービス体験に関する権限や責任の所在が不明確な傾向がある点についても言及している。

このことからHageman氏はサービス体験全体を統括してサービスの質を担保する役割としてSXO(Service Exprience Officer)を置くこと、そしてサービスエクスペリエンス部門を置くことを提案した。今後、デザイナーとノン・デザイナーのハイブリッドチームとして密接な関係作りが必要であり、そのためにサービスデザインが組織の機能の一部となるような組織自体の変革が最も重要である

Appendix – 世界的UXコンサル会社、Adaptive Path社が買収を受けた理由

Adaptive Path社はブログの中でこう述べている。

(略)

Over the years, we’ve talked to a lot of people who wanted to buy our business. The trouble is that few of them were actually interested in everything we do. Maybe they just needed a bunch of digital product design resources, and the strategy, research, and service design work would fall by the wayside. Or they valued our designers, but not the program management and support functions that we find critical to the success of our project teams. Or they’d take our consultants, but our events business would be closed up or sold off.

(略)

You can see where this is going, right? Somebody came along who finally, truly, seemed to get it. A company with a great culture that shares and values our intellectual curiosity and design sensibilities, that wants us to continue doing great work inside their organization, but also continue helping others do great work too, by fostering dialogue and teaching what we have learned. And that somebody, remarkably, turned out to be Capital One.

(略)

Jesse James Garrett (2014)『Adaptive Path: Where We’re Going Next』

これまでも長年にわたり、沢山の買収のオファーを受けてきたが、その中でデザイナーのみでなくAdaptive Path社がプロジェクトチームの成功に欠かせないと考えている「プログラムマネジメント」や「サポート機能」部分を含め行なっていること全てに関して評価してくれた者はいなかった。

我々の知的好奇心とデザインの感性に共感し評価してくれる素晴らしい文化を持つ会社、それが唯一Capital One社であったという。

米国金融大手がUX名門Adaptive Pathを買収

【Report】Service Design Network Japan Conference 2016(前編 1)

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Fintechアプリにおいては習慣形成を促進させることが重要なことの一つとして紹介した。今回は特にトレーディングアプリにおける習慣形成についてDesign Tips that can Encourage Habits in Online Trading Applicationsdにて述べられているデザインチップを紹介する。

ここ最近でFintechマーケットは新たな価値が生み出されると同時に個々人が使えるアプリの幅としても指数関数的なペースで成長してきている。これまで、英国のトレーディングプラットフォームを台頭に初心者やパートタイムであろうと様々な人に投資市場へのアクセスを提供してきた。

トレーディングアプリのデザインは流動的で、技術的・社会的・経済的傾向に沿って絶えず変化する。また、最近のUXデザインの特徴としてはデザイナーが特定の習慣や消費者行動の例を奨励するプラットフォームを開発しようとする傾向が高まっている。

それらがどのように機能し、どのような流れで設計するのかについて紹介する。

お金を蓄えたいのか・増やしたいのかを明確にすること

習慣形成を促進させようとするデザイナーはFoggの行動モデル(FBM:Fogg’s Behavioural Model )に則ることが多く、これにより開発者はユーザーにとって望ましい行動やネックポイントとなっていることを特定することができる。その結果、複数のレベルにおけるユーザーに合わせたユーザー中心デザインを行うことができる。

Foggの行動モデルとは人々の行動を誘発させるには三つの要素が同時に関わっているとする消費者行動モデルである。(図)「行動を起こすのに十分なモチベーション」「それを行えるだけの能力」そして「きっかけ」この構成要素のどれかが欠けていたり、十分でなかったりすると人がアクションラインを越えることはなく、行動に至らない。モチベーションが高い人ほど、そして行うのが簡単なほど人は行動を起こしやすいと言える。しかしモチベーションが高くて、行うのも容易いとしても、行動を起こすきっかけ(=トリガー)がなければ、人は行動を起こさない。

Fogg Behavior Model(BJ Fogg, 2007)
What Causes Behavior Change?をもとに作成

このモデルを踏まえ、プロセスとしてはサービスを利用する動機を特定することから始まる。FBMの原理によれば感覚・予想・所属を含む、動機付けに対する3つの下位要素がある。トレーダーはリターンを生み出すため入札をするため、トレーディング時には予想は明らかに強い動機付けのきっかけとなる。

デザインはユーザーの収益性の最適化に焦点を合わせ、そしてそれを共通認識として明確にしておくこと、これを理解しておくことが重要である。

目標を達成する能力をユーザーに提供する

この段階はプロセスにおいて最も重要な部分になる。多くの標準的なユーザーはトレーディングを行うことで収入を得たいと思うが、実際にそのための知識や勇気を持っている人はほとんどいない。この欲求と行動の間のギャップは人間の本質として基本的な部分ではあるが、いかにこのギャップを認識して、埋めるように設計できるかが重要となってくる。

これを実現するには多くの方法があるが、鍵となるのはパワフルで多様な分析ツールを設けることである。これにより実用的なガイダンスと安心感の両方をユーザーに提供することができる。つまり、ユーザーがそれぞれの目標を実現できるための包括的な情報を提供することを意味する。

同様に、ユーザーが安心して十分な情報のもと決断を下すには、ユーザーに提供される情報はユーザーが理解できる必要があり、そのためにも実用的で包括的な情報の提供は不可欠となる。

最近の現代的なデザインでは非常に多くのものがチャートやグラフをカスタム可能にしている。そのため、ユーザーは自身でそのアプリのインタフェースをカスタマイズすることで自身の体験をカスタマイズしている。

さらに、インタフェースを識別可能な単位ごとに分割することも重要である。これにより個人が目標を達成するのに役立つ、よりシームレスなアプリ内での移動が可能になる。

きっかけを作る

この段階においては、ユーザーのコアとなるモチベーションに基づいて、ユーザーが行動を起こすために必要なきっかけがうまく作用するよう設計されている必要がある。ここで、習慣として形成させるためには十分ではないかもしれないが、ユーザーの行動を促すためのきっかけとなるものをうまく繰り返し利用することは非常に重要である。

戦略的見通しや哲学、性格などによってユーザー一人ひとりきっかけは異なるが、好みに応じてパーソナライズされたリアルタイムのデータをユーザーに提供することが解決策となる。

例えば、通貨などのデリバティブ資産を好むデイトレーダーの場合、毎日の分析結果と外国為替をメールで自動的に送信することができるようにするなどである。これは直接的なきっかけとなり、長期にわたってユーザーの前向きな行動に影響を与えることがある。逆にこうしたきっかけがない場合、ユーザーの中心的な動機や投資をする能力に関係なく、習慣的な行動を形成することはほとんど不可能であり、きっかけを作ることはデザインプロセスの重要な段階と言える。

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Fintechとは

アメリカでは2000年代より使われていたFintechという言葉、ここ数年で日本においても非常に頻繁に使われるようになってきた。北米や北ヨーロッパ、中国などを中心としたキャッシュレスへの動きやブロックチェーン技術による仮想通貨の出現などテクノロジーの進化とともに、金融のあり方も急速に変化してきている。

日本銀行ではFintechを次のように説明している。

FinTech(フィンテック)とは、金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語で、金融サービスと情報技術を結びつけたさまざまな革新的な動きを指します。身近な例では、スマートフォンなどを使った送金もその一つです。

米国では、FinTechという言葉は、2000年代前半から使われていました。その後、リーマンショックや金融危機を経て、インターネットやスマートフォン、AI(Artificial Intelligence、人工知能)などを活用したサービスを提供する新しい金融ベンチャーが次々と登場しました。 例えば、資金の貸し手と借り手を直接つないだり、Eコマースと結びついた決済サービスを提供する企業があるほか、ベンチャー企業が決済などの金融サービスに参入する動きも増えています。

日本銀行

Fintechと切り離せないUXデザイン

こうした動きの中、Fintechとは切っても切り離せないもの、それがUXデザインである。スマートフォンという革新的なデバイスの出現により様々なことがスマートフォン一つで行える、つまりシームレスとなってきている。シームレスとは「継ぎ目」のない状態のことであり、アプリケーションソフトの中で、それぞれの機能が区切られることなく一貫して操作することができる状態のことを言う。

遡れば携帯は電話をするだけのものであった。それからメールができるようになり、WEB検索ができるようになりと様々なことが端末一つで行えるようになってきた。現在では健康管理やオンラインゲーム、タスク管理や配車まで行うことができる。

そして金融業界もシームレス化していくこととなり、スマホでの決済や、個人間送金、資産管理、投資、資産運用などが行えるようになっている。

ここでなぜUXデザインがFintechとは切っても切り離せない関係かと言うと、Fintechとはまさに個人の資産を扱うこととなる。この資産とは非常にデリケートでその扱いを少し間違えるだけでユーザーには最悪なユーザー体験をさせてしまうこともあり得てしまう。この資産を扱う点においてFintechにおけるUXデザインは他の業界と比べその位置付けは全く別のものとなる。UXデザインではユーザーにサービスの利用を通して嬉しい体験をしてもらうことを目標として全体を設計していくが個人の資産を扱うため、より慎重で緻密な設計が必要とされる。

さらに、業界の専門用語も多く、専門的な知識が必要とされる。デザイナーはただ使いやすい自然なユーザビリティを実現すればいいのではなく、誤操作による金銭的な損失・破綻を防がなければいけなく、このバランスが非常に難しいとされる。

また、金融業界とはその技術や法規制が常に変化し続けているため、デザインしている体験に関連する金融規制法などの規則の最新情報についてもチェックし、常に先を見ながらデザインしていくことも重要とされている。

このように扱うものがデリケートのためほんの些細なことにも慎重にならなければいけない点や専門知識が必要な点、単に使いやすければいいわけでもない点からデザイナーにとっては意欲のそそるものではないかもしれない。しかしその分、挑戦しがいのある分野とも言える。アメリカはシカゴに、アジャイル型開発と最新技術を用いたアプリ開発を行うCodal社というUXデザインのリーディングカンパニーがある。このCodal社のUXデザイナーがもっとも多くのことを学べたプロジェクトは金融サービスであると述べている。(UX Design For FinTech: 4 Things To Remember

このような場合、FintechのためのUXガイドラインといったものがあれば良いが、先にも述べたが業界として変化し続けているために、ガイドラインをはっきりさせるのが難しい。Fintechを理解することは現在デジタルプラットフォーム革命にある業界を理解することである、とInVisionApp社は述べている。

“Understanding fintech means understanding an industry undergoing a digital platform revolution.”

UX design guidelines for fintech platforms

さらにInVisionApp社はFintech業界を次のように見ている。

現在、MintやAcronsなど進んだ個人資産管理サービスがあるなか、テクノロジーの進化のペースが非常に早く、ユーザーの技術の進化に対する期待は非常に高いものとなっている。それに加え、消費者は生活の中でシームレスなプラットフォームを使うことにどんどん慣れており金融という複雑な分野においてもシームレスになることを期待している。

この絶えず変化するFintech業界は標準的なUXを実現するのは難しいが、その中でも決定的な基準がある。InVisionApp社が述べるFintech業界におけるUXデザインの基準を、マルタのUXコンサルタントJustin Mifsud氏による基準と含めて紹介する。

FintechにおけるUXデザインのポイント

フリクション(摩擦)を適切に用いる

FintechにおけるUXデザインでは、特定の作業に対するフリクション(摩擦)が重要事項の一つとなる。サービスは基本的に 「シームレス」や「手間のかからない」よう設計をするが、Fintechにおいては必ずしもそうではなく、「手間のかからない」などの逆にあたる「摩擦」がユーザーにとって良い体験をもたらすという独特の特徴を持っている。手間がかからず使いやすすぎるとそれは同時に金銭を失いやすいこととつながる。

ユーザーがすべての資金管理の動作を簡単に実行できることは重要だが、それには重大な財務上の決定が伴っていることを覚えておく必要がある。多額の金銭を扱うといった大きな行動や固定額を投資し続けるといった恒久的な変更は、偶然または不注意に実行される可能性があるほど簡単に行えてはいけない。

「ユーザーのミスを減らし、信頼を促進するために摩擦を加える」

“Inject friction to mitigate user mistakes and promote trust.”

UX design guidelines for fintech platforms

多要素認証や重大な財務上の行動を確認するポップアップ、およびその他の摩擦がユーザーのミスを軽減し、潜在的に取り返しのつかないエラーを防ぐのに役立つ。これらの摩擦はユーザーの行為に対する妨げとなるが、ユーザーの経験については妨げにはならない

実際、ユーザーはこれらの摩擦を理解する。これらの摩擦はユーザーへ「安全である感覚」と「自分の財務情報が安全であることを知る快適さ」を促進する。そしてその透明性は、アプリケーションとユーザーの間の信頼感をも高める

個人で簡単に投資が行えるアメリカのAcornsというアプリではお金の操作をする際、本来は必要がないがあえて意図的に1タップ(これが「摩擦」にあたる)増やし一度ユーザーに確認してもらうことで大きな損害を防ぐことを期待している。そして、こうしたフリクション(摩擦)は本来であればユーザーにとって鬱陶しいものとなるがFintechにおいてはそうとも限らない。その瞬間(瞬間的・一時的UX)においては妨げだと感じるかもしれないが体験全体(累積的UX)としては良い体験につながる。

密なフィードバックでユーザーに安心を与える

ユーザーが行なった動作に対するフィードバックを行うことはUXデザインにおいて重要な要素であるが、Fintechにおいては他のサービスよりも格段に重要となる。金銭を扱うため、「行なった作業が実際に成し遂げられているのか」「自分の情報は安全な状態にあるのか」といったことがわかるフィードバックを常に与えることが重要でユーザーへ安心をもたらす。送金を行なった場合は送金を正常に行えたことがユーザーがわかるようにフィードバックをする必要がある。

習慣形成を促進させる

FintechにおけるプラットフォームのUXは、健全な財務習慣を育成し、プラットフォームへの継続的な信頼を促進するよう設計する必要がある。こうした設計は、プラットフォームの主要な機能として、もしくはよりきめ細かいデザインタッチとして実装する。

個人向け財務管理プラットフォームのMintがこれを得意としている。Mintではユーザーの財務状況について週ごとにまとめる機能によってこの習慣形成を行なっている。毎週日曜日に「その週における財務の動きについての要約が準備できている」というプッシュ通知もしくはメール通知が来るようになっている。この機能により、「Mintを使い始めてから日曜日が予算を確認する日になった」という習慣を作る。より適切に設計された習慣形成は非常に簡単なUXの補強となる。

ユーザーが何かのタスクを成し遂げた時、財務的な一定の目標を達成した時、プラットフォーム内の基本的な動作を行えた時でさえ、ユーザーがとったアクションに対して報いることを強化させることは重要である、としている。

よりシンプルにする

金融とは非常に複雑のため、標準のユーザーが主要な資産管理の原則に精通しているとは考えにくい。そのため、プラットフォームが複雑な財務データをユーザーが実際に使える情報に変換することが不可欠である。

プラットフォームではユーザーが望む可能性のある、その人自身に合わせた財務指標を計算できたとしても、そこで提示する数値の重要性やそのデータの背後にある意味をユーザーに理解してもらえなければプラットフォームとして役に立たない。

これをうまく解決するには、読みやすくした財務データ、理解しやすいグラフやチャート、その他の図などをうまく活用したよくデザインされたインタフェースである。財務情報を視覚的に、魅力的な美しいデザインによって表示することが重要である。(財務データをただ美しくグラフにするのではなく、あくまでも実際のユーザーにとってわかりやすいグラフにすることが重要である。)

Acornsは美しいインタフェースとして参考になる。そのグラフ内に用いられている数値はインタラクティブでもあり、ユーザーは定期的な投資額を変更して、将来的にROI(Return on Investment :投資した資本に対して得られた利益)がどのように変化するかを簡単に確認することができる。

投資額とROIが視覚的に瞬時にわかる
Acornsの美しくインタラクションもあるインタフェース

さらにAcornsは他に金融について学べる教育機能という優れた機能もついている。ファイナンスを容易にするための最も早い方法や最もユーザーフレンドリーな方法ではないが、一部のユーザーにとってはやりがいのある充実した経験を提供することができる。

メディアのような形で金融について学べるAcorns

まとめ

今回あげたガイドラインは包括的ではないが、実際にユーザーに使われているアプリを参考にしており、実際に使われているサービスにはユーザーのニーズが反映されているとも考えられるため参考になるだろう。

ただ、これらをやみくもに適用すれば良いのではない。深いユーザー理解のもと、その時々の文脈や状況にあった適切なインタラクションをする必要がある。フィードバックを常に行うと紹介したが、フィードバックを無意味にしすぎることはサービスへの信頼をむしろ壊すことにも繋がるなど状況に応じた適切な設計が必要である。

まとめ

  • ユーザーのミスを軽減し、信頼を促進するために摩擦を注入する
  • フィードバックを常に行い、ユーザーとのインタラクションを密に行う
  • ユーザーの習慣をつくり、継続的な使用を促進するデザイン技法
  • 意味のあるデータ、視覚化、および教育による複雑なプロセスの単純化

Appendix – 参考にしたい海外のFintech App

  • Mint
  • LearnVest
  • Acorns – pocket robo-advisors
  • Betterment
  • Venmo – the creation of entirely new payment platform

引用・参考
日本銀行
UX design guidelines for fintech platforms
UX Design For FinTech: 4 Things To Remember
Acorns
Mint

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