Fintechとは
アメリカでは2000年代より使われていたFintechという言葉、ここ数年で日本においても非常に頻繁に使われるようになってきた。北米や北ヨーロッパ、中国などを中心としたキャッシュレスへの動きやブロックチェーン技術による仮想通貨の出現などテクノロジーの進化とともに、金融のあり方も急速に変化してきている。
日本銀行ではFintechを次のように説明している。
FinTech(フィンテック)とは、金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語で、金融サービスと情報技術を結びつけたさまざまな革新的な動きを指します。身近な例では、スマートフォンなどを使った送金もその一つです。
日本銀行
米国では、FinTechという言葉は、2000年代前半から使われていました。その後、リーマンショックや金融危機を経て、インターネットやスマートフォン、AI(Artificial Intelligence、人工知能)などを活用したサービスを提供する新しい金融ベンチャーが次々と登場しました。 例えば、資金の貸し手と借り手を直接つないだり、Eコマースと結びついた決済サービスを提供する企業があるほか、ベンチャー企業が決済などの金融サービスに参入する動きも増えています。
Fintechと切り離せないUXデザイン
こうした動きの中、Fintechとは切っても切り離せないもの、それがUXデザインである。スマートフォンという革新的なデバイスの出現により様々なことがスマートフォン一つで行える、つまりシームレスとなってきている。シームレスとは「継ぎ目」のない状態のことであり、アプリケーションソフトの中で、それぞれの機能が区切られることなく一貫して操作することができる状態のことを言う。
遡れば携帯は電話をするだけのものであった。それからメールができるようになり、WEB検索ができるようになりと様々なことが端末一つで行えるようになってきた。現在では健康管理やオンラインゲーム、タスク管理や配車まで行うことができる。
そして金融業界もシームレス化していくこととなり、スマホでの決済や、個人間送金、資産管理、投資、資産運用などが行えるようになっている。
ここでなぜUXデザインがFintechとは切っても切り離せない関係かと言うと、Fintechとはまさに個人の資産を扱うこととなる。この資産とは非常にデリケートでその扱いを少し間違えるだけでユーザーには最悪なユーザー体験をさせてしまうこともあり得てしまう。この資産を扱う点においてFintechにおけるUXデザインは他の業界と比べその位置付けは全く別のものとなる。UXデザインではユーザーにサービスの利用を通して嬉しい体験をしてもらうことを目標として全体を設計していくが個人の資産を扱うため、より慎重で緻密な設計が必要とされる。
さらに、業界の専門用語も多く、専門的な知識が必要とされる。デザイナーはただ使いやすい自然なユーザビリティを実現すればいいのではなく、誤操作による金銭的な損失・破綻を防がなければいけなく、このバランスが非常に難しいとされる。
また、金融業界とはその技術や法規制が常に変化し続けているため、デザインしている体験に関連する金融規制法などの規則の最新情報についてもチェックし、常に先を見ながらデザインしていくことも重要とされている。
このように扱うものがデリケートのためほんの些細なことにも慎重にならなければいけない点や専門知識が必要な点、単に使いやすければいいわけでもない点からデザイナーにとっては意欲のそそるものではないかもしれない。しかしその分、挑戦しがいのある分野とも言える。アメリカはシカゴに、アジャイル型開発と最新技術を用いたアプリ開発を行うCodal社というUXデザインのリーディングカンパニーがある。このCodal社のUXデザイナーがもっとも多くのことを学べたプロジェクトは金融サービスであると述べている。(UX Design For FinTech: 4 Things To Remember)
このような場合、FintechのためのUXガイドラインといったものがあれば良いが、先にも述べたが業界として変化し続けているために、ガイドラインをはっきりさせるのが難しい。Fintechを理解することは現在デジタルプラットフォーム革命にある業界を理解することである、とInVisionApp社は述べている。
“Understanding fintech means understanding an industry undergoing a digital platform revolution.”
UX design guidelines for fintech platforms
さらにInVisionApp社はFintech業界を次のように見ている。
現在、MintやAcronsなど進んだ個人資産管理サービスがあるなか、テクノロジーの進化のペースが非常に早く、ユーザーの技術の進化に対する期待は非常に高いものとなっている。それに加え、消費者は生活の中でシームレスなプラットフォームを使うことにどんどん慣れており金融という複雑な分野においてもシームレスになることを期待している。
この絶えず変化するFintech業界は標準的なUXを実現するのは難しいが、その中でも決定的な基準がある。InVisionApp社が述べるFintech業界におけるUXデザインの基準を、マルタのUXコンサルタントJustin Mifsud氏による基準と含めて紹介する。
FintechにおけるUXデザインのポイント
フリクション(摩擦)を適切に用いる
FintechにおけるUXデザインでは、特定の作業に対するフリクション(摩擦)が重要事項の一つとなる。サービスは基本的に 「シームレス」や「手間のかからない」よう設計をするが、Fintechにおいては必ずしもそうではなく、「手間のかからない」などの逆にあたる「摩擦」がユーザーにとって良い体験をもたらすという独特の特徴を持っている。手間がかからず使いやすすぎるとそれは同時に金銭を失いやすいこととつながる。
ユーザーがすべての資金管理の動作を簡単に実行できることは重要だが、それには重大な財務上の決定が伴っていることを覚えておく必要がある。多額の金銭を扱うといった大きな行動や固定額を投資し続けるといった恒久的な変更は、偶然または不注意に実行される可能性があるほど簡単に行えてはいけない。
「ユーザーのミスを減らし、信頼を促進するために摩擦を加える」
“Inject friction to mitigate user mistakes and promote trust.”
UX design guidelines for fintech platforms
多要素認証や重大な財務上の行動を確認するポップアップ、およびその他の摩擦がユーザーのミスを軽減し、潜在的に取り返しのつかないエラーを防ぐのに役立つ。これらの摩擦はユーザーの行為に対する妨げとなるが、ユーザーの経験については妨げにはならない。
実際、ユーザーはこれらの摩擦を理解する。これらの摩擦はユーザーへ「安全である感覚」と「自分の財務情報が安全であることを知る快適さ」を促進する。そしてその透明性は、アプリケーションとユーザーの間の信頼感をも高める。
個人で簡単に投資が行えるアメリカのAcornsというアプリではお金の操作をする際、本来は必要がないがあえて意図的に1タップ(これが「摩擦」にあたる)増やし一度ユーザーに確認してもらうことで大きな損害を防ぐことを期待している。そして、こうしたフリクション(摩擦)は本来であればユーザーにとって鬱陶しいものとなるがFintechにおいてはそうとも限らない。その瞬間(瞬間的・一時的UX)においては妨げだと感じるかもしれないが体験全体(累積的UX)としては良い体験につながる。
密なフィードバックでユーザーに安心を与える
ユーザーが行なった動作に対するフィードバックを行うことはUXデザインにおいて重要な要素であるが、Fintechにおいては他のサービスよりも格段に重要となる。金銭を扱うため、「行なった作業が実際に成し遂げられているのか」「自分の情報は安全な状態にあるのか」といったことがわかるフィードバックを常に与えることが重要でユーザーへ安心をもたらす。送金を行なった場合は送金を正常に行えたことがユーザーがわかるようにフィードバックをする必要がある。
習慣形成を促進させる
FintechにおけるプラットフォームのUXは、健全な財務習慣を育成し、プラットフォームへの継続的な信頼を促進するよう設計する必要がある。こうした設計は、プラットフォームの主要な機能として、もしくはよりきめ細かいデザインタッチとして実装する。
個人向け財務管理プラットフォームのMintがこれを得意としている。Mintではユーザーの財務状況について週ごとにまとめる機能によってこの習慣形成を行なっている。毎週日曜日に「その週における財務の動きについての要約が準備できている」というプッシュ通知もしくはメール通知が来るようになっている。この機能により、「Mintを使い始めてから日曜日が予算を確認する日になった」という習慣を作る。より適切に設計された習慣形成は非常に簡単なUXの補強となる。
ユーザーが何かのタスクを成し遂げた時、財務的な一定の目標を達成した時、プラットフォーム内の基本的な動作を行えた時でさえ、ユーザーがとったアクションに対して報いることを強化させることは重要である、としている。
よりシンプルにする
金融とは非常に複雑のため、標準のユーザーが主要な資産管理の原則に精通しているとは考えにくい。そのため、プラットフォームが複雑な財務データをユーザーが実際に使える情報に変換することが不可欠である。
プラットフォームではユーザーが望む可能性のある、その人自身に合わせた財務指標を計算できたとしても、そこで提示する数値の重要性やそのデータの背後にある意味をユーザーに理解してもらえなければプラットフォームとして役に立たない。
これをうまく解決するには、読みやすくした財務データ、理解しやすいグラフやチャート、その他の図などをうまく活用したよくデザインされたインタフェースである。財務情報を視覚的に、魅力的な美しいデザインによって表示することが重要である。(財務データをただ美しくグラフにするのではなく、あくまでも実際のユーザーにとってわかりやすいグラフにすることが重要である。)
Acornsは美しいインタフェースとして参考になる。そのグラフ内に用いられている数値はインタラクティブでもあり、ユーザーは定期的な投資額を変更して、将来的にROI(Return on Investment :投資した資本に対して得られた利益)がどのように変化するかを簡単に確認することができる。

Acornsの美しくインタラクションもあるインタフェース
さらにAcornsは他に金融について学べる教育機能という優れた機能もついている。ファイナンスを容易にするための最も早い方法や最もユーザーフレンドリーな方法ではないが、一部のユーザーにとってはやりがいのある充実した経験を提供することができる。

まとめ
今回あげたガイドラインは包括的ではないが、実際にユーザーに使われているアプリを参考にしており、実際に使われているサービスにはユーザーのニーズが反映されているとも考えられるため参考になるだろう。
ただ、これらをやみくもに適用すれば良いのではない。深いユーザー理解のもと、その時々の文脈や状況にあった適切なインタラクションをする必要がある。フィードバックを常に行うと紹介したが、フィードバックを無意味にしすぎることはサービスへの信頼をむしろ壊すことにも繋がるなど状況に応じた適切な設計が必要である。
まとめ
- ユーザーのミスを軽減し、信頼を促進するために摩擦を注入する
- フィードバックを常に行い、ユーザーとのインタラクションを密に行う
- ユーザーの習慣をつくり、継続的な使用を促進するデザイン技法
- 意味のあるデータ、視覚化、および教育による複雑なプロセスの単純化
Appendix – 参考にしたい海外のFintech App
- Mint
- LearnVest
- Acorns – pocket robo-advisors
- Betterment
- Venmo – the creation of entirely new payment platform
引用・参考
日本銀行
UX design guidelines for fintech platforms
UX Design For FinTech: 4 Things To Remember
Acorns
Mint